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海洋から新たな経済圏を─ 気候変動とマイノリティに適応する、 海上未病都市「Dogen City」とは海洋から新たな経済圏を─ 気候変動とマイノリティに適応する、 海上未病都市「Dogen City」とは海洋から新たな経済圏を─ 気候変動とマイノリティに適応する、 海上未病都市「Dogen City」とは海洋から新たな経済圏を─ 気候変動とマイノリティに適応する、 海上未病都市「Dogen City」とは海洋から新たな経済圏を─ 気候変動とマイノリティに適応する、 海上未病都市「Dogen City」とは海洋から新たな経済圏を─ 気候変動とマイノリティに適応する、 海上未病都市「Dogen City」とは

田崎 有城

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海洋から新たな経済圏を─
気候変動とマイノリティに適応する、
海上未病都市「Dogen City」とは
N-ARK(ナーク)代表田崎 有城

海洋から新たな経済圏を─気候変動とマイノリティに適応する、海上未病都市「Dogen City」とは

update 2023.09.28

# 海洋

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# 農業

# 環境

1990年代半ば以降、基準値よりも高温となる年が増え、気候変動はますます加速している。気温の上昇によって、暴風雨や洪水、干ばつなど世界の自然災害の発生数も過去50年で5倍にまで増加した。また、気候変動に伴う生物種の減少や食糧不足、気候難民の増加などの問題も悪化の一途を辿り、喫緊の課題となっている。

 この社会課題に対して「気候変動に適応し、世界に通用する市場をつくるには、コンセプチュアルな事業と技術開発が必要です」と語るのは、N-ARK(ナーク)代表取締役の田崎有城氏。2023年6月には、海洋に新たな経済空間を生み出すため、海上未病都市「Dogen City(同源都市)」の事業構想を発表し、実現に向けて多様な産業やテクノロジー、法規制を統合する産学官の共同事業「NEW OCEANコンソーシアム」も準備している。

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N-ARKが2023年6月に発表した「Dogen City|同源都市」のビジュアルイメージ。

ロードマップに、「2030年に海外で第1号となるDogen Cityのローンチ」を記載しているN-ARKは、現在どのような課題に向き合っているのか。AC-CELL(アクセル) Bipass編集部に所属する株式会社ダイセルのメンバーが、新たな海洋経済圏に向けた取り組みと可能性について伺った。

ディープテック支援を経て、自ら描いたストーリーを具現化すべく生まれたN-ARK

―考古学、建築、アート&サイエンスというバックグラウンドを持ち、ビジュアルデザインスタジオWOWでクリエイティブディレクターを務めてきた田崎さん。どのような経緯でN-ARK(ナーク)を立ち上げたのでしょうか。

田崎有城氏(以下、田崎):N-ARKの活動自体は2021年からスタートしていますが、立ち上げのきっかけは2017年に、ディープテック・スタートアップを支援する、リアルテックファンドというベンチャーキャピタルのメンバーに参画した時まで遡ります。リアルテックファンドは、大学などの研究機関で生まれた社会にインパクトを与えうる革新的な研究技術(ディープテック)に着目し、シード・アーリー期のスタートアップを育成するために立ち上がりました。キャピタリストと共同で事業推進に関するハンズオンをしてきました。

リアルテックファンドはバイオ、宇宙、ロボティクス、AI、アグリ・フード、医療、環境・エネルギー、エレクトロニクス・半導体、新素材という多角的な領域で、国内外合わせて約80社に投資とハンズオンを実行してきました。研究開発型スタートアップはIT系スタートアップに比べて技術開発と事業開発に時間がかかり、実現性と投資回収においてのリスクが高いという理由で投資対象になりづらかったのですが、リアルテックファンドが起点となり現在は様々なVCもディープテックスタートアップへの投資を行っています。リアルテックファンドでは、これまで47社がプロダクトアウトに至っており、N-ARKを立ち上げたのもディープテックスタートアップの成長過程や、成長に必要な要素を目の当たりにしてきた経験が大きかったです。

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―デザインスタジオからファンドへ参画したのは、なぜですか? 

田崎:デザインやアートをやっているだけでは、社会変革を起こせないと痛感したからです。独立するにしても、自分で制作プロダクションをやるつもりもなかった。制作プロダクションは自分たちの社会的ミッションは提示していない=事業戦略がない=行き当たりばったりの自転車操業になりがちになり、結果自分の人生をかけて達成するミッションが設定できなくなると考えていたからです。そんな時にリアルテックファンドの代表を務める永田暁彦さんと意気投合して、自分がやってきたデザインと彼がやってきたサイエンスを起点にした事業推進とファイナンスの三つを組み合わせたスキームで革新的なテクノロジーを社会実装していこうという流れになり、僕ものめり込んでいきました。

―そこでの経験が、アントレプレナーとしての道へとつながっていったのですね。

田崎:そうですね。リアルテックには、資金の調達だけでなく、事業開発、知財戦略、人事、PR、量産設計の知見やノウハウを投資先のスタートアップに投下していくという点が大きな特徴としてあります。研究開発型スタートアップの創業者はほとんどがサイエンティストかエンジニアですが、資金調達した瞬間から経営者として事業と技術を推進し、開発していかなければいけませんから、当然七転八倒の組織トラブルや技術課題が積み上がります。その苦難を乗り越えて5年〜7年ほど事業を進捗させたスタートアップは驚くべき成長を遂げ、日本を代表するスタートアップになっていきました。こういった創業期からシード、アーリー、ミドルくらいまでの企業成長を体感できる環境にいたからこそ、共に悩み、苦しみながら方法論が身についたし、自分はなにをやるべきかと考えた時に、「果たすべき社会の役割はなにか」「そこに事業性は伴うのか」といった重要な2点を考えることができました。そうしてN-ARKを立ち上げ、最終地点として描いたストーリーがDogen City(同源都市)だったんです。

コンセプトは医食住同源、「Dogen City」が目指すもの

―「Dogen City|同源都市」は、医食住同源をコンセプトに掲げ、スマート・ヘルスケア・シティとしてヘルスケアを中心に、食環境、建築、情報、エネルギー、資源を一体化させた生活都市を海上につくろうとしています。その中でDogen Cityが掲げる「Rising NEW OCEAN」というビジョンは、どのようなものなのでしょうか?

田崎:海洋を新たな経済圏=NEW OCEANとし、政策、事業、技術の各戦略を一つにまとめ、気候変動に対してレジリアンスな海洋経済圏を創り出していくというものです。ソーシャルインパクト(自然災害への対応、海洋環境改善、気候難民受け入れなど)と経済インパクト(従来の海運・資源・国防に加え、新技術・ビジネスを活用した発展)の両面で、自社だけでなく多様な企業、政府、大学と共に推進しようとしています。構想には4年間くらい費やしましたね。

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―NEW OCEANを実現するためのミッションについても教えてください。

田崎:ただ気候変動に適応するだけでなく、3つの産業創出を考えています。1つ目が海洋ディベロッパーとして「海上未病都市」をつくること。2つ目がデータインフラの高速化を目指した「海洋コンステレーション」。3つ目が海上という立地を活かした、「海と宇宙を繋ぐ」旅客輸送ロケット関連の産業です。

―海と宇宙を繋ぐとはどういうことでしょうか。

田崎:宇宙産業はスペースXの登場により、それまでの軍事・国家事業から民間事業に移行されてきました。この変革は「New Space|新宇宙」と呼ばれています。宇宙と海はフロンティアという観点では似ていますから、新産業化された宇宙産業をモデルにして事業を考えていっています。例えば、スペースXは宇宙輸送サービス用ロケットを製造し、小型衛星を大量に展開する事でコンステレーション化し、スターリンクという衛星インターネットアクセスサービスを実現しました。そうなれば宇宙環境でデータインフラが整った上でアプリケーションを動かすことができるので、データ関連産業が発達していきます。

海では主に海運、軍事、漁業、資源採掘が主で、最近は洋上風力発電が新たな産業起点になりますが、現代ビジネスに欠かせないデータビジネスイノベーションは起こっていません。そこで海上に最新鋭のデータ都市を出現させる事をDogen Cityでは重要視しているのです。

―Dogen Cityは1カ所あたり直径1.58km、周囲約4kmの大きさで、コンパクトなサイズ感になっています。どのようなつくりなのでしょうか?

田崎:Dogen Cityは、従来の都市開発と異なり3つのインフラプロダクトとスマートシティOSから構成されます。1つは、Dogen Cityを囲む「RING」という船の様な形状の施設。住居可能ゾーンを提供するだけでなく、内湾環境を生み出し、津波から街を守る機能とエネルギー、データ、上下水道など生活インフラ機能を集積する機能を持ちます。1つあたり150mのコンポーネントが電車の車両のように連結しているのでCGでは円形に見えますが正確には24角形です。2つ目は「海中エッジデータセンター」という都市運営OSやヘルスケアデータ分析、創薬シミュレーションなどの高付加価値サービスを提供する海中での冷却効果を利用したエッジコンピューティングを実装するデータセンター。そして3つ目は「浮体建築」。内湾を自由に移動でき土地制約を受けず、都市機能をデマンドレスポンシブに組み替えることができます。

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最後にスマートシティOSです。Dogen Cityの住民は、リングデバイス、血液採取、ゲノム分析から都市OS「Dogen」によって生活圏データの管理と分析を行い、日常的に遠隔医療を受けることができます。さらに、医療データやゲノムデータと組み合わせることで、個人の健康状態をより正確に評価し、海中エッジデータセンターの演算処理で創薬シミュレーションや遠隔ロボット手術などの先端医療も受けることができます。

これら3つのインフラプロダクトとスマートシティOSによって成り立つ業態としては、AppleやTeslaの様にハードウェアとソフトウェアから構成させる製造業になります。決して建設業ではないということがポイントです。

これまでの都市計画は中央集権的な建設業としてディベロッパーとゼネコンを中心に推進されてきましたが、デジタル技術の登場によりIoTをはじめとして、エネルギー、水資源、食糧など小型、自立、分散化が進んでいます。都市もスマートシティという文脈でいえばIoT技術を基盤にしていますから自律分散型になっていくはずです。その先駆けがDogen Cityだと考えています。

―世界がターゲットになっていきそうですね。最終的に、何箇所つくることを想定していますか?

田崎:実際に、問い合わせはヨーロッパからのものがほとんどです。現在世界には、約7000万人もの難民がおり、今後は気候変動により、ますます難民は増えると予測されています。2050年には2億人以上もの人が移住する可能性があると言われていることを踏まえると、Dogen Cityは大きくも小さくもできますが、今回の4万人規模の都市では単純計算で5000カ所はつくる必要があるでしょう。

まずは「食」から。海洋建築事業GREEN OCEANの現状

 ―N-ARKを立ち上げた2021年から活動を続けているGREEN OCEANというプロジェクトは、どのような内容なのでしょうか?

田崎:Green Ocean」は、浜松市、浜名漁業協同組合、清水建設フロンティア開発室と共に、浜名湖で海上農場を推進しているプロジェクトです。都市沿岸地での設置を想定していて、今月からは浮体技術の実証実験を始め、海の上下を利用し、上層では海水農業による高機能野菜栽培、下層では土壌改善や多品種の同時養殖を目指した研究開発を行っています。

地上とは全く違う技術体系で、意図的かつ高次元に機能をデザインした野菜をつくるのなら、海を活かさないと意味がない。そこで、海水を栄養源として栽培する海水農業にも挑戦しています。開発パートナーには三重県にある農業生産法人ベンチャーのポモナファームを迎えました。そして1年半の実証実験を経て、葉物やレタス、トマトなどの栽培に成功し始めています。

これは湿気中根という水と土をほとんど使わずに湿度によって野菜を育てる技術を用いて、可能な限り海水の栄養素を使い、なおかつ農業排水が発生しない持続可能な農業を実現しています。

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海水を栄養源として栽培ができる海水農業技術と、育成環境を実現する耐塩建築を融合させた海上ファーム「Green Ocean(グリーンオーシャン)」のプロトタイプ建設イメージ。

―海水を栄養源にした野菜。味が気になります。

田崎:それがめちゃくちゃおいしいんですよ。実際に、海水農業で育てられたトマトは、糖度が高いだけでなく、GABA機能性表示基準の中でも「睡眠の質向上」の基準値を超える数値を示しています。機能性野菜としての付加価値を見出すことができました。現在は、Dogen Cityでの「栄養学に基づいた1週間レシピ」のメニュー開発なども進めています。それに加えて、環境負荷の観点でたくさん火や水、調理器具を使わなければいけない野菜のリストも作成していますね。

―リストはどのように活用されるのでしょうか。

田崎:Dogen Cityには、定住者1万人が暮らせるようになっているので、その人たちが食べられる分を生産するために使えます。その時にどの野菜がどれだけの環境負荷がかかるのかも含めて設計し、スマートシティOS上で制御する技術要件の洗い出しに使っています。

ルールメイクができるか。抜本的な取り組みが、社会課題解決の道筋をつくる

 ―この取り組み活動してる中で、どのような社会課題をメインに見据えて活動されているのですか?

田崎:本質的には気候変動への適応と気候難民がターゲットです。例えばドイツのメルケル首相が2015年に100万人以上のシリア難民を受け入れた時、彼らは英語の識字率が高くて、若い人も多く、少子高齢化が進むドイツでは人材として活用する目的もあり受け入れを決めていた。そう考えると、「難民」という言葉もよくないなと。ちゃんと人材として考えていけば日本も少子高齢化とか言わなくても、人口ポートフォリオを再構成できる。ただ、あくまでもそれは最終地点なんで、そこに行くまでは事業モデルとしてちゃんと成功させていくためにステップを踏んでいく必要があると思っています。

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―日本にいると、気候難民問題は馴染みが薄く感じます。田崎さんがそこまで課題意識を持つようになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょう。

田崎:文化人類学や民俗学にも通じる事ですが、難民含めたマイノリティが大切な存在だと考えているからだと思います。現代社会にも通じますが、変革を起こすのは村社会の中心にいる既得権益を運営している人たちではなく、他所からきた人たちによって起こされてきました。日本でいうと「まれびと」で、文化人類学者の中沢新一さんの言うところの「トリックスター」に当たります。よく言う変革をもたらすのは「わかもの」「よそもの」「ばかもの」ですね。僕は「海」に関してはど素人の門外漢ですが、門外漢だからこそやり切れると思っているのは、「まれびと」が常に起点になって硬直的な状況をかき回して改革にまで繋げていった事を歴史から学んでいるからに他なりません。

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聞き手のBipass編集長 後藤友尋。

―ディープテックで事業を始める場合、どのような戦略が必要だと考えていますか?

田崎:研究開発型のディープテックスタートアップは先ほども話した通り、研究開発の成功と失敗のリスクも高いですし、新規性の高い技術と製品を市場に受け入れてもらう難易度も高い領域です。且つ気候変動を始めとする社会課題を解決するミッションも追っていますから、経済合理性と社会的インパクトの両方を追い求めていかなければなりませんので、事業戦略におけるバランス感が非常に大切だと思います。「事業開発」「組織開発」「技術開発」。基本的ではありますが、この3つを経営メンバーが同等に扱い、一つの事業戦略に練り上げられる事が最重要と考えます。

それとルールメイキングです。最近上場した宇宙事業の「ispace」もそうですが、事業モデルとルールメイキングが一体になっているので、彼らはしっかり宇宙法改正の実現まで実行しています。自社のミッションで設定している事業規模を達成するためには、ルールメイキングも含めてやることが必要条件であり、自分たちにとっても新しい海洋経済圏をつくるためにはそのような働きかけは必須条件だと考えています。

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―今後、田崎さんが目指す先において、どのようなコラボレーターを必要としていますか?

田崎:どちらかというと、どの地域でやるかが課題なんですよね。市場としてターゲットは絞り込んでいるものの、世界の海には国際法があるだけでなく、国ごとの海の法律=海事があります。ルールメイキングが行われているのはヨーロッパで、そこに先進的な視点を持つ海事弁護士や、法的な観点からコミットしてくれる国で事業を拡張していきたいですね。

―ダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで、循環型社会など、誰もが愛せる未来を目指すことを呼びかけています。田崎さんにとっての「愛せる未来」はどのようなものでしょうか?

田崎:愛せる未来は、まさにDogen Cityで目指していることに集約されています。アントレプレナーとしての資質があるマイノリティが頭角を表し、経済と文化が循環するようになり、そして開発した技術を地域に分散できるようになればいいですよね。

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Photo:Shoichi Fukumori/Text:Eri Ujita

N-ARK Oficial HP

田崎 有城

N-ARK(ナーク)代表田崎 有城

N-ARK(ナーク)代表田崎 有城

ビジュアルデザインスタジオWOW勤務時に公共施設やアートパビリオンなど建築プロジェクトを担当。2018年にディープテックに特化したクリエイティブファームKANDO設立。同時にリアルテックファンドメンバーとしても多数のディープテック・スタートアップと並走しながら、ファイナンス視点も含めた総合的なハンズオン支援を行う。2021年に先端研究者のロングインタビューメディア「esse-sense|エッセンス」共同創業。同年に、気候変動に対応する海上建築スタートアップ「N-ARK|ナーク」を創業。

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