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キノコは“面白い”から産業になる。 Made in Japanのエコ素材、 「マッシュルームレザー」の未来キノコは“面白い”から産業になる。 Made in Japanのエコ素材、 「マッシュルームレザー」の未来キノコは“面白い”から産業になる。 Made in Japanのエコ素材、 「マッシュルームレザー」の未来キノコは“面白い”から産業になる。 Made in Japanのエコ素材、 「マッシュルームレザー」の未来キノコは“面白い”から産業になる。 Made in Japanのエコ素材、 「マッシュルームレザー」の未来キノコは“面白い”から産業になる。 Made in Japanのエコ素材、 「マッシュルームレザー」の未来

グループ対談

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キノコは“面白い”から産業になる。
Made in Japanのエコ素材、
「マッシュルームレザー」の未来
MYCL Japan株式会社 代表取締役社長乾 馨太
合同会社mushco 代表取締役日野 嘉彦

キノコは“面白い”から産業になる。Made in Japanのエコ素材、「マッシュルームレザー」の未来

update 2024.03.29

# プロダクト

# サステナブル

# ファッション

# ビジネス

# デザイン

# 農業

# 新素材

近年、サステナブルな新素材として注目を集めているマッシュルームレザー。キノコの菌糸体(キノコを構成する糸状の細胞の集まり)を薄く重ねてつくられるマッシュルームレザーは、動物由来の原料を一切使わず、化学物質の使用を最小限に抑えた天然の素材だ。動物性の天然皮革や合成皮革に比べ製造過程での環境負荷が非常に低く、動物愛護を考慮した素材としてファッション業界やインテリア業界などで活用されている。特に海外では“ヴィーガンレザー”として、ここ数年で市場が急成長している。

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そんな世界の潮流に対し、日本国内でもマッシュルームレザーにフォーカスした産業とビジネスが、キノコの生産量日本一を誇る長野県から生まれている。日本初となる、国産マッシュルームレザーの研究開発に取り組むのは小諸市を拠点にする、MYCL Japan(マイセルジャパン)株式会社。自然に寄り添った暮らしの実現と日本のキノコ産業の振興を目指している。

キノコ類は菌床栽培で1年を通して安定的に生産できる一方で、価格の低迷や生産コストの上昇などから、生産者は減少傾向にある。MYCL Japanでは、日本で培われてきたキノコの栽培技術をマッシュルームレザー製造に活用することで、地域の産業に新たな道筋を描き始めている。

さらに製品開発に加えて、菌糸体の培養過程で生じる廃棄物のコンポスト化、収穫後の菌床のプロダクト化など、循環型の素材づくりを確立し、生産者へノウハウを提供していくビジョンを描いている。

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「マッシュルームレザーMYCL」でつくられたmushcoの名刺入れ

そんなMYCL Japanの素材を使ったプロダクト開発に取り組むのは、国内初のマッシュルームレザー特化型ブランドとして2023年に誕生した「mushco(ムシュコ)」だ。マッシュルームレザー特有の凹凸や、一つとして同じものがない柄など、素材の風合いを活かしたプロダクトを製造している。

国内でも着実にニーズが拡大しているマッシュルームレザーの可能性について、MYCL Japan代表の乾馨太氏と、mushco代表の日野嘉彦氏に伺った。

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取材が行われた小諸市のMYCL Japan オフィス。戦国時代のはじめの1487年に、大井伊賀守光忠(おおいいがのかみみつただ)により小諸の町にはじめてつくられた「鍋蓋城」の跡地の一部を拠点としている。

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消費者とキノコ農家をつなぐ、MYCLの循環

—まずはMYCL Japanの立ち上げの背景を、乾さんにお聞きしたいと思います。

乾馨太氏(以下、乾):私はもともと日本の技術を世界に広めたいという漠然とした思いがあり、20代の頃からオーストラリアで学費を稼ぎながら大学に通っていました。向こうの大学の研究室でリサーチアシスタントの仕事をし、帰国してから出会ったのがキノコ産業です。

日本のキノコの栽培技術は唯一無二で、毎日安定した量を収穫する技術が何十年も前から確立されていました。キノコは日本では農業のイメージが強いと思いますが、実はとてもアカデミックなグローバルビジネスの可能性を持っています。そこで日本のキノコの栽培技術を海外に向けて提供する会社としてSALAI International Japanを立ち上げ、事業の中で様々な国の研究者やビジネスパートナーたちと出会っていきました。

—キノコを食用ではない視点で見出していったんですね。

乾:欧米を中心にマッシュルームレザーが注目され始めた時期でしたが、日本国内でのキノコ産業の動き出しとしてはかなり早かったと思います。とはいえ、その頃の日本はまだSDGsも社会に浸透しておらず、マッシュルームレザーをビジネスにできるのはもう少し先だと感じていました。

 —水面下でビジネスを育てながら、サステナブルな素材への需要が高まるタイミングを待っていたと。

乾:まさに、ここ数年で一気にSDGsの考え方が定着し、国内の企業のベクトルも変わってきた。そこで、インドネシアのビジネスパートナーに声をかけ、彼らの基礎技術を導入してマッシュルームレザーを始めることにしました。それが今から3年くらい前です。

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乾馨太氏/MYCL Japan株式会社 代表取締役社長

—マッシュルームレザーの会社を立ち上げるモチベーションとして、サステナブルな文脈の使命感もあったのでしょうか?

乾:正直いうと、私たちの原点にあるのは「キノコの栽培技術って面白いよね」というシンプルな好奇心です。その延長線で、時代とマッチしたサステナブルな文脈への需要が生まれた感じですね。キノコの栽培技術やマッシュルームレザーの製造はとてもエシカルなものなので。ニーズや市場を決めるのは、いつの時代でも受け手側だと考えています。

—マッシュルームレザーの認知度や需要は、今どのような状況なのでしょう?

乾:こうした新しい市場が日本から発信されて拡大していくというケースはあまりなく、海外で流行っているものが日本で注目され始める、という傾向が強いように思います。実際に欧米のマッシュルームレザーは、企業がハイブランドと組んでニーズを広げていき、すでに何年も前から市場が拡大していました。その流れの中で、日本の私たちの活動も注目され始めている状況ですね。これからは世界の市場拡大と同時並行的に、私たちも日本の個性的で優れたマッシュルームレザーを広めていくことで、潜在的な顧客に発信していく必要があります。

—MYCLJapanの事業や製造されている素材についても、詳しく聞かせてください。

乾:エコ素材である「MYCL」をベースとして、キノコからできた革素材の「マッシュルームレザーMYCL」、インテリア資材や建築材にも使用可能な「マッシュルームボードMYCL」を製造・提供しています。菌糸由来であるMYCLは生分解性を備えているのでコンポスト化が可能であり、農産物栽培などへの再利用も実現できます。

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100%キノコの菌糸に由来する「マッシュルームレザーMYCL」。菌糸体は2ヶ月ほどの培養期間で収穫できる。優れた強度と耐久性を持ち、柄と色の濃淡は自然発生により同じものが二つと存在しない一点もの。

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マッシュルームレザーを収穫したあとの菌糸体の土台を圧縮してアップサイクルした「マッシュルームボードMYCL」。

—消費者とキノコ農家、それぞれが顧客になるかと思いますが、どのような価値提供をされているのでしょうか?

乾:おっしゃる通り、消費者と生産者の両方から収益が確保できるようなビジネスモデルを目指しています。例えばマッシュルームレザーでいうと、農家さんにキノコの菌床を販売してマッシュルームレザーの“生生地”をつくってもらい、それを買い取って最終加工することで、消費者に対してプロダクトを販売していくといった形のサイクルを構築しています。

マッシュルームレザーはキノコ栽培のノウハウがあれば農家さんでも製造可能です。なので、栽培設備を持っていれば初期投資を圧倒的に抑えながら収益性の高いビジネスに参加してもらうことができる。キノコは販売価格が安価なため、収益源に苦しんでいる生産者の方にとってもメリットになるのではと考えています。一方で、このビジネスを私たちだけで完結しようとすると巨大な工場設備が必要になるので、生産者さんとネットワークをつくりながら生産していくことは私たちにとっても大きな魅力となっています。

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キノコの菌糸体を培養する菌床。おがくずが原料に含まれている。

目指すのはキノコ業界のリブランディング

 —ここからはマッシュルームレザーMYCLを活用したブランド「mushco(ムシュコ」)の立ち上げについて、日野さんにお話しいただければと思います。

日野嘉彦氏(以下、日野):私は大学院で、キノコの性質を活かした木材利用や木材保存、バイオエコノミー社会の実現などをテーマに研究していました。一時期は、高知県に滞在して林業の川上から川下まで現場を見せていただいた経験もあり、木材や林業の業界に貢献したいという思いが常に心の中にはありました。

—前職ではIT系企業に所属されていたとのことですが、どのようにキノコや林業に繋がってきたのでしょう?

日野:2023年の9月から3ヶ月間、経産省の新規事業向けアクセラレーションプログラムに参加したことがきっかけです。自分自身の興味関心や得意分野を考えながら起業家の方たちとディスカッションする中で、大学院でキノコの研究をしていたという自身のバックグラウンドが注目されて。その頃ちょうど、MYCL Japanさんが国内で初めてマッシュルームレザーの大量生産を始めるというプレスリリースを見つけました。

—新規事業のパートナーとしてぴったりですね。

日野:はい、キノコの菌床の原料はおがくずなので、国産のマッシュルームレザーが普及すれば、日本の林業への貢献にもつながると考えました。早速、乾さんにコンタクトしてお話をさせていただき、マッシュルームレザーを使ったプロダクトづくりに取り組み始めました。

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日野嘉彦氏/合同会社mushco 代表取締役

—乾さんとしても、新しいビジネスを通して産業の社会課題に取り組んでいくという点で意義を感じる部分があったのでしょうか?

乾:私たちが取り組んでいるのは、産業のリブランディングです。日本はキノコ産業のパイオニアであり、キノコの栽培技術は世界的に見てもものすごくレベルが高い。マッシュルームレザー製造の基礎技術はインドネシアから導入しましたが、それをブラッシュアップしてより質の良いサイクルが生み出せると考えています。今は製造ラインの自動化にも着手しており、このノウハウを確立して日本をはじめ世界にも輸出していけば、キノコ業界をはじめとした様々な産業の底上げやリブランディングにつながると想像しています。

自分らしさを後押しする、「一点もの」のプロダクト

—MYCL Japanの今後の展開についても教えてください。

乾:今、「マッシュルームレザーMYCL」30cm×30cmを基本サイズとして製造していますが、さらに大きなサイズの試作をしています。技術的な問題はないのですが、物性の担保の研究開発や機材の調達・整備が課題となっています。現行のマッシュルームレザーは羊の皮くらいの強度がありますが、サイズが大きくなればなるほど菌糸をより強くする加工が必要になります。全く新しい産業の新しい素材の開発なので、とにかくトライ&エラーで研究を進めている段階ですね。

—サイズの大きなものが実現できると、どのような展開の幅が期待できそうでしょうか。

乾:小さなプロダクトだけでなく家具など大きなものにも使うチャンスが生まれます。大きなサイズの製造ラインが自動化できれば、国内のフランチャイズ展開にも拍車がかかりますし、世界のパートナーに対しても新しいビジネスができると考えています。

—菌糸という生きている素材をどのように改良していくのか、とても興味深いです。

乾:キノコは一般的には安くて安定的に供給されるいい食材ですが、プロダクトに転用するために一つの菌糸から同じ成分を一定量収穫するのには特殊な技術が必要です。空間の空気の揺らぎや湿度など、栽培環境を繊細にコントロールすることも重要です。

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インタビュアーの後藤友尋/Bipass編集長

—そのキノコならではのプロセスをあえて可視化することで、製品の価値や魅力が増すという側面もありそうですね。

乾:確かに、それはありますね。今までキノコ産業は業界自体がニッチであり、全国の生産者もそれぞれが点と点で商売をしていた。そこを私たちが線で結び、プラットフォームのような役割を担っていけるとベストだと考えています。

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インタビュアーの磯江亮祐/Bipass編集部

—マッシュルームレザーは一点づつそれぞれ表情が異なるので、作り手や原料・製造過程のストーリーが見えてくると、受け手の愛着も増しそうですよね。

乾:マッシュルームレザーも製法によってタイプがあり、欧米では合皮のようなファブリックとして使いやすいものが好まれたり、石油由来の製品を混ぜて効率性を重視したつくりをしたりするケースもあります。私たちの場合、現段階ではマス・マーケットに向けて大量生産をするのではなく、一点づつの個性を出したいと考えています。100%菌糸のマッシュルームレザーに培養の過程で徐々に表れる柄は他製品とは違う価値になるのではないかなと。

日野:「mushco」もブランドとしてまさに、マッシュルームレザーが持つ唯一無二の柄や個性を価値だと捉えています。同じものがこの世にないアイテムは、それを身につけることで自分自身の個性を後押ししてくれるような役割もあるのではないかと。単純作業はますます効率化されていくこれからの社会では、自分が何をしたいか・何が好きかという能動性がより求められていくと思います。自分らしさや、自分のやりたいことに挑戦する気持ちを応援するブランドにしたいという想いも、プロダクトには込めています。

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仲間を集め発信する、新しい素材・新しい産業

 —日野さんはmushcoとして、この先どのような展開を考えているのでしょうか?

日野:現在、第一弾プロダクトとして「マッシュルームレザー名刺入れ」を制作し、2024年3月からMakuakeで先行販売をスタートさせました。2024年5月6日までのMakuake期間中は、有楽町と渋谷のb8ta(ベータジャパン)で商品の現物と加工前のマッシュルームレザーを出品しますので、ぜひお近くの方は手にとって触れて見てもらえると嬉しいです。

また、新しい動きでは自治体とコラボレーションして日本の森林の課題解決につながることを目指したオリジナルアイテムの試作を進めています。マッシュルームレザーは新しい素材なので、今はまだ1点の製作に時間とコストがかかります。まずはプロダクトの型をしっかりと定めてOEM先を見つけ、製作点数を増やすこと。そして自分たちが良いと思う商品をつくるだけでなく、新しい生活習慣に合わせた商品ラインナップを生んでいくことも目標です。次世代の地球環境のことを想い、マッシュルームレザーという素材やそれで出来た商品を世の中に広めることに興味がある方、マッシュルームレザーで出来た柄や商品を魅力的に感じる方は一緒に事業をつくる仲間になって欲しいです。

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—MYCLJapanの事業としても、日野さんのようなスタートアップの方たちがマッシュルームレザーで商品を世に出していくことが、その価値を広めていくことにつながりますね。

乾:私たちが質の高いマッシュルームレザーをつくり出し、ブランドの方たちがそれぞれの個性を持って世の中に発信していく。二人三脚で大きくしていく事業だと思っています。今後はさらなる認知度向上のために、自社でもプロダクトづくりをしていく構想もありますが、すでに100社以上からお問合せをいただいている状況です。まずは“素材屋”として、マッシュルームレザーの認知度を高めて素材提供に注力できる体制を整えていきたいです。

—最後の質問です。ダイセルは持続可能な未来を目指し「愛せる未来、創造中。」というタグラインを掲げています。お二人にとっての「愛せる未来」を教えてください。

乾:私は自然が好きなので拠点に長野を選んだのですが、自然に対して無頓着な人が現代は増えていると感じています。配慮ができないというよりも、関心がなくなってきているのかなと。みんなにもう少しだけ、自然と共存していることを生活の中で感じてほしいです。キノコ産業を生業にすることも、その一つのきっかけになればと思いながら取り組んでいます。どれだけITやデジタルが発展しても、人間はどこかで物質や自然に依存しないと生きられない。そこに愛を持つことが、より良い未来につながる気がしますね。

日野:私はブランドを立ち上げたことで、自身が取り組みたい社会課題の解決のために一歩づつ近づけている実感があります。それは適切なフェーズで出会うべき方たちと出会うことができたからであり、自分の意思だけで進めているというよりも誰かの力を借りることで導かれているという感覚があります。自分が世の中に価値貢献できる分野を見つけて、自分らしい生き方を仲間と一緒に実現できる未来が来るといいですね。

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MYCL Japan株式会社
合同会社mushco

文:野村 智子/写真:福森 翔一

乾 馨太

MYCL Japan株式会社 代表取締役社長乾 馨太

MYCL Japan株式会社 代表取締役社長乾 馨太

1982年3月17日生まれ。株式会社SALAI International Japan 代表取締役、MYCL Japan 株式会社 代表取締役。きのこ栽培技術に特化した国際ビジネスに強みを持ち、世界中のきこ栽培関連企業との強固なネットワークを軸に国内外で活動中。唯一無二の価値ある国内きのこ産業技術の国際リブランディングに注力している。きのこ栽培技術を応用し、菌糸を特殊加工して作るマッシュルームレザー製造ベンチャー(MYCL Japan)は国内きのこ業界では初のグローバルJV。きのこビジネスのあらゆる可能性を追求し、きのこ産業全体を次のフェーズに推し進めている。2023年度 経産省、中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者 300社 海外展開部門」受賞。2022年度 グループ連結 14億円 従業員 75名。2023年度 SALAI単独 6.4億円 従業員 4名。

日野 嘉彦

合同会社mushco 代表取締役日野 嘉彦

合同会社mushco 代表取締役日野 嘉彦

1996年東京生まれ。東京農工大学大学院農学府環境資源物質科学専攻在学時に、きのこを活用した木材利用・保存の研究に従事。その後、スタートアップスタジオ、起業、大企業内新規事業プロジェクトを経て、2023年12月に国内初マッシュルームレザー特化型ブランド「mushco」をスタート。2024年3月に合同会社mushcoを設立。文科省 「トビタテ!留学JAPAN」12期生、経産省「始動 Next Innovator」9期生。

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