INTERVIEW
カリモク家具がひらく共有地 暮らしの豊かさのための “Commons”とはカリモク家具がひらく共有地 暮らしの豊かさのための “Commons”とはカリモク家具がひらく共有地 暮らしの豊かさのための “Commons”とはカリモク家具がひらく共有地 暮らしの豊かさのための “Commons”とはカリモク家具がひらく共有地 暮らしの豊かさのための “Commons”とはカリモク家具がひらく共有地 暮らしの豊かさのための “Commons”とは
グループ対談
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Karimoku Commons Tokyo:金子 栞
Karimoku Commons Kyoto:入江 真未
カリモク家具がひらく共有地暮らしの豊かさのための“Commons”とは
update 2023.09.06
# デザイン
# 建築
# 森林
# 住宅
# 木工
カリモク家具は1940年創業の日本を代表する木製家具メーカーだ。様々な木製品を生産することで磨かれた技術を用い、1960年代から自社製家具の販売を開始。高度な機械技術と職人の技を融合させたプロダクトの数々は、その品質の高さで愛されるのみならず、多様なコンセプトを提案するコレクションや、建築家やデザイナーとのコラボレーションも展開し、住環境やオフィスを問わず多くの場面で利用され続けている。
そんなカリモク家具が2021年2月にオープンしたのが、Karimoku Commons Tokyo というスペースだ。


東京都港区の表参道駅から徒歩15分ほど、少し入り組んだ閑静な住宅街を進んだ先で、端正な佇まいの建物が目に入る。ここKarimoku Commons Tokyo は、1階がまるごとギャラリースペースになっており、さらに2Fと3F、そして屋上は、家具のショースペースや新しい家具の試験としての場という機能を担いながら、スタッフが働くオフィスでもある。ギャラリーはもちろん、全てのフロアに誰でも訪れることができ、企画展を鑑賞したり、スタッフとのコミュニケーションを楽しんだりしながら、カリモク家具のある暮らしや世界観を体感できる場所なのだ。

「家具を売ることだけを目的にしていない」というこの場所は、カリモク家具が掲げる木のある豊かな暮らしを体感し、来場者と分かち合うための「共有地(commons)」を目指して運営されている。豊かさが多様化した現代で、木製家具業界や関係者だけにとどまらず、あらゆる垣根を超えて共に未来を考えていく空間のあり方とは、一体どのようなものなのだろう。2023年2月に京都にオープンした Karimoku Commons Kyoto ともオンラインでつなぎながら、カリモク家具がこの場所で目指すものについて伺った。
偶然が連鎖するハイブリッドスペース
ーKarimoku Commons には、ぜひ一度来たいと思っていたので嬉しいです。改めて、この場所について説明いただけますか?

淡路雄大氏/カリモク家具 事業開発部
淡路雄大氏(以下、淡路):カリモク家具は全国にショールームを持っていますが、統一された空間としてカリモク家具の考えなどを体感していただける場所はありませんでした。ここは家具を見たりするだけでなく、私たちが掲げる企業理念でもある「木とつくる幸せな暮らし」に少しでも触れていただくための場所です。建築家と創り上げた「Karimoku Case Study」や、国産広葉樹の未利用材を活用して森林保全にも取り組む「Karimoku New Standard」など、4つのコレクションを中心に空間を構成しています。


淡路:そして、もう一つの大きな目的は、私たち自身が来場者と直接コミュニケーションをとることです。私たちは普段からこの空間をオフィスとして使い、日々の業務に取り組んでいます。働く様子が見えるライブオフィスとしての機能と、1階を丸ごと使ったギャラリースペース、そして耐候試験場としても活用している屋上など、さまざまな目的が組み合わさったハイブリッドな空間です。
ーショールームのように設えた空間で働く社員の方と、直接お話できるのは面白いですね。たとえば、どのようなコミュニケーションが起こるのでしょうか。
淡路:ハウスメーカーやインテリアコーディネーターの方をはじめ、たくさんの方がいらっしゃるので、その場で出会った人同士で会話が弾む光景はよく目にします。とあるデザイナーの方とお話ししている時に、偶然弊社の副社長が通りがかり、ご紹介することもありました。展示物やコレクションへの興味がきっかけで、企業間のコラボレーションが生まれることもあります。

1階のギャラリースペースでは取材時、テキスタイルデザイナー 鈴木マサル氏による展覧会「テキスタイルの表と裏 -Looking through the overlays」が開催されていた。
淡路:あるとき私の友人の作家をギャラリースペースの展示に招いたら、そのまま話が盛り上がり、次の展示企画が動き出したんです。やはり実際に行われている展示などを介して繋がると関係構築のスピードが早いですし、「こんなことができたらいいよね」というアイデアが次々に実現していく場所だと感じています。
ー仕事の相談や作品鑑賞のために訪れたはずの場所で、思いもよらぬ出会いや企画が生まれてきたのですね。クローズドな空間では生まれない偶発性は、この場所ならではの価値だと思えました。

金子栞氏/カリモク家具 事業開発部
金子栞氏(以下、金子):落合陽一さんと若佐慎一さんの展覧会を行った際には、たくさんの大学生が足を運んでくれました。展示を見てもらった後に話をしていたら、コロナ禍での就活事情やここでの働き方にも話題が及び、カリモク家具自体にも興味を持ってもらえて。モデルの矢野未希子さんと写真家の東京祐さんの展示では、ファンの方がショースペースの椅子に座ってじっくり写真集を広げてくつろいでくれたのも嬉しかったですね。ギャラリーの企画が変わる度に、まったく異なる層の方々にお越しいただけるんです。
私自身も、一年前まで羽田空港でグランドスタッフとして働いており、全くの畑違いからの転職でした。もともとカフェなどの空間や自然由来の素材のアイテムは好きだったのですが、入社後に改めて身の回りを見てみると、よく行くカフェのインテリアや使っていたスキンケアアイテムなどに、カリモク家具の製品が使われていることに気づいたんです。転職して日が浅いからこそ、一般のお客様と近い目線で交流しながら、カリモク家具のファンを増やしていきたいと考えています。
想いを分かち合うための共有地

ーKarimoku Commons Toyko は2021年2月にオープンしました。長い歴史のあるカリモク家具が、今の時代にこのような場所を開いた理由を教えてください。
淡路:カリモク家具は1940年の創業から80年以上の歴史を持つ企業です。材木屋からスタートし、その後愛知県刈谷市で木工所を開き、初めは下請けとして足踏みミシンのウッドペダルや天板、楽器用の部材を手がけながら技術を磨き、1962年から家具の製造を開始しました。今でも人気のある最初期の「カリモク60」シリーズを始め、高い品質と良いデザインの商品を打ち出すことで、国内有数の木工家具メーカーとして大きく成長してきたのです。
会社が一貫して目指しているのは、誰かの暮らしを豊かにすること。創業時は戦後まもない時代背景もあり、人の暮らしをどのように豊かにしていくかという問いが根底にありました。そうした問いを持ち続けて、時代に合わせて順応してきたことが、カリモク家具が生き残ってきた理由だと思うのです。

淡路:企業として大きくなると、どうしても小回りが効かず、新陳代謝が生まれづらくなるものです。それでもカリモク家具は社風やコレクションに新しい考え方を取り入れ続け、日本の木材を大切に扱いながら、社会と密接な関係を築こうとしてきました。そうした時代の流れに合わせた事業開発の一環として、今の社会やそこで暮らす人たちと積極的に交わる場であるKarimoku Commons が生まれたのは、ある意味自然なことでした。
ー新規事業に関わる身としても、場を開いてアンテナを張り、発信していくスタイルに共感します。既存の活動の延長にとどまらないためには、多少チャレンジングに思えたとしても、こうした拠点をつくる姿勢が必要なのですね。

金子:もう一つのキーワードは「共有地」という考え方です。戦後も生き残った創業者には、周りの暮らしを豊かにしていかなければ、というある種の義務感がありました。家具作りで得た技術やこだわりは、暮らしの他の場面にも転用できるはずです。木工の力で暮らしを豊かにしていく可能性や、その根っこにある創業者や私たちの想いも、Karimoku Commons では伝えていきたいのです。
ただ家具を売るだけでは、こうした想いを伝えきれないかもしれません。だからこそ、私たちは来てくださった方たちとたくさん話をします。人対人のコミュニケーションを通じて、私たちの気持ちや木材と向き合う姿勢まで伝え、想いを共有する場所という意味も「Commons」という名称には込められています。
ーカリモク家具に関わる人たちの想いが交差する場としてのネーミングだったのですね。
淡路:お客様に想いを伝えることもありますが、私たち自身が感じたい、教えてほしいという気持ちも強いんです。ある意味、展示やコレクションに力を入れているのは、カリモク家具の一番新しい瞬間を共有して、いろいろな方とご一緒するきっかけをつくるため。毎日のようにいろいろなことが起こるので、もちろん反省や改善すべき点も多いですが、いきいきと過ごせています。

東京と京都、2つの拠点で育まれるコミュニティ
ー京都の Karimoku Commons Kyoto からもオンラインでご参加いただいています。東京とはまた異なる雰囲気の場所ですね。


入江真未氏/カリモク家具 事業開発部。2023年2月に新たにオープンしたKarimoku Commons Kyotoにて運営業務やWEBサイトを担当している。
入江真未氏(以下、入江):Karimoku Commons Kyoto は、奥行きのある京町家の跡地に建てられた場所です。京都は日本の中でも特別な土地であり、関西圏の方々にも背景やストーリーと共にカリモク家具を知っていただきたいという想いがありました。Karimoku Commons Tokyo ほどの大きさはありませんが、上質な体験をしていただけるよう工夫を凝らしています。カリモク家具のコレクションはもちろん、京都や関西地域の職人さんによるスタイリングアイテムやKarimoku Commons Kyoto用に作っていただいた接茶用のカップとお皿なども設えています。Karimoku Commons Kyotoのアイテムは全てに物語があるところも魅力なんです。




Photographer:Tomooki Kengaku
入江:京都という土地柄、観光客の方がいらっしゃることも多く、地域とのつながりは強く意識しています。近所のお茶屋さんや宿泊施設と交流することもありますし、2023年7月~8月には祇園祭に合わせ、京提灯の老舗「小嶋商店」さんとミニ提灯を作るワークショップや提灯制作・絵付け実演も実施しました。

京提灯の老舗・小嶋商店。
ー京都らしい近所付き合いがあるのですね。東京でも地域とのつながりは意識しているのでしょうか?
淡路:Karimoku Commons Tokyo は最寄り駅から少し離れた場所にあります。アクセスが良すぎない場所だからこそ、ここに訪れる方たちは目的を持って、積極的に情報に触れようとしてくれる。必然的に私達とのコミュニケーションも活発になり、それがコミュニティにも派生し、お客様の満足度も高くなればと思っています。

淡路:周辺の家具メーカーさんやインテリアショップと連携して、お互いを紹介し合うこともあります。なぜなら、自分達の提案だけがお客様とマッチするとは限らないからです。家具を扱う者同士、それぞれが発信する価値を感じてもらい、そこでシナジーが生まれれば、業界全体の底上げにもなるはずです。他にも、近隣の小学生に向けたワークショップを実施するなど、地域の方々とうまくつながるための取り組みを行ってきました。
私がカリモク家具に入社してすぐの頃、飛騨高山の木工職人が20人以上も集まる展示会に参加したんです。そこでは職人や家具メーカーが互いを引き合わせるなど、会社の垣根を超えたやりとりが起きていました。ライバル企業がどうだとか、従来の商流がどうだとか、そういう業界ならではの常識にとらわれない姿勢は、Karimoku Commons のオープンな雰囲気にも通じています。

後藤友尋/Bipass編集長
ー慣例で誰かを拒んだり、一方的な壁を作ったりしない。そうしたオープンな価値観が根付いているからこそ、フラットな共有地が成り立つのだと思いました。
金子:本当にそう思います。この場所で働くスタッフも、木工業界で20年以上のキャリアがある淡路や、他業種から転職したばかりの私まで様々で。一人ひとりの価値観や大事にしていることの数だけ、Karimoku Commons からコミュニティが生まれると思うんです。
豊かな暮らしを共に考え、愛せる未来に進んでいく
ーダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで、誰もが愛せる未来を目指すことを呼びかけています。今後Karimoku Commons として取り組みたいことや、皆さんにとっての「愛せる未来」を教えてください。
入江:私は前職でECショップのWEBデザイナーとして働いていたのですが、コロナ禍で差別化が難しくなり、逆に実店舗の重要性を意識するようになったんです。Karimoku Commons は実際にコミュニケーションをとりながら、五感で体感していただく場で、ECサイトにはない新たな体験ができる空間だと感じています。「良い暮らし」とは何かを考え続けるカリモク家具の魅力とともに、関西のものづくりや出会いにフォーカスしながら暮らしを彩る気づきを発見できる場となるようにしていきたいと思っています。Karimoku Commons Kyoto は2023年2月にスタートしたばかりですが、これまで関わってくれた皆さんと一緒になって、より良い空間を作りあげていきたいです。
淡路:Karimoku Commons はとても実験的な場所です。企業が大きくなると難しくなるようなことにもチャレンジし取り組んでいきたいです。そしてどんどん事業の可能性を広げていきたい。そこで通底しているのは「豊かさ」を考えることです。
私たちが考える豊かさは、ただ家具があるだけで実現するものではありません。この場所のために作られた香りがあったり、オリジナルの音楽があったり、あえてキャプションなしでコレクションを見ていただいたり——そうした多様な取り組みを通じて、幸せってなんだろう?と一緒に考えていければ、Karimoku Commons に価値が重なっていくはずです。

淡路:私は自分が幸せにならないと、他の人も幸せにできないと思っていて。まずはこの場所を拠点に「豊かさ」に自分なりの答えを見つけて、少しずつでもいいから来場された方に伝えていきたい。ダイセルさんとこうやって話し合うこと自体も、愛せる未来に向かって進んでいくための第一歩ですよね。一人で豊かさを考えていても、ただ悶々としてしまうので、人とのコミュニケーションが必要なんですよ。
ー形のわからない未来や豊かさに対して、共に語りあい、想像するような場所として、Karimoku Commons が大切な役割を担っていくのですね。
金子:カリモク家具が目指しているのは、木を使って人の暮らしを幸せにすることです。ここ数年、コロナ禍を始めとした目まぐるしい変化が続き、社会が嫌になってしまうこともあったはずです。それでも生活の根っこには必ず衣食住があり、私たちはその「住」を担ってきました。
大変な日々の中でも、好きなものや体験に囲まれて暮らしていると、小さな喜びに気が付いたり、それが活力になるかもしれません。私はKarimoku Commons の環境を活用して、例えば、朝の読書会や屋上で行うヨガのワークショップなど、心が豊かになる体験も提供してみたいんです。その中で家具に触れてもらい、その良さや安らぎを体感してもらえたら嬉しいです。

淡路:暮らしの豊かさや幸せについて考えられること自体も、この場所の存在意義になるはずです。社内外を問わず、もっと多くの人に関わってもらいたいですし、ダイセルさんともぜひ色々とご一緒させていただきたいです。
ー新しい家具のあり方を考えたり、実験的なプロダクトを置いてもらったりと、この場所で取り組んでみたいことがたくさんあります。何かが生まれる可能性を強く感じたので、ぜひまたお邪魔させてください。今日はありがとうございました!

文:淺野 義弘
編集:松岡 真吾
写真:福森 翔一

カリモク家具 Karimoku Commons Tokyo:淡路 雄大
カリモク家具 Karimoku Commons Tokyo:淡路 雄大
カリモク家具株式会社 事業開発部 プロモーション課。木工職人を12年(内、4年は自営)、法人営業を5年経験後、2022年3月にカリモク家具へ入社。Karimoku Commons Tokyo の運営と接客、ギャラリー企画運営、新規コラボレーション企画などの業務を担当。

Karimoku Commons Tokyo:金子 栞
Karimoku Commons Tokyo:金子 栞
カリモク家具株式会社 事業開発部 プロモーション課。新卒で入社した航空会社のグランドスタッフ職を経て、2022年8月にカリモク家具へ入社。Karimoku Commons Tokyo の運営と接客業務、PRを担当。

Karimoku Commons Kyoto:入江 真未
Karimoku Commons Kyoto:入江 真未
カリモク家具株式会社 事業開発部 プロモーション課。前職ではECショップのWEBデザインやマーケティングを担当。2022年9月にカリモク家具へ入社。Karimoku Commons Tokyo の運営業務を経験し、2023年2月に新たにオープンしたKarimoku Commons Kyotoへ移動。運営業務やWEBサイトを担当している。
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