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物語を思い、文化を紡ぐ。 持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは物語を思い、文化を紡ぐ。 持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは物語を思い、文化を紡ぐ。 持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは物語を思い、文化を紡ぐ。 持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは物語を思い、文化を紡ぐ。 持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは物語を思い、文化を紡ぐ。 持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは

吉田 史子

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物語を思い、文化を紡ぐ。
持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは
Tricolage株式会社 取締役 COO吉田 史子

物語を思い、文化を紡ぐ。持続可能な旅を巡るサステナブルツーリズムとは

update 2024.03.27

# 観光

# サステナブル

# ローカル

# 都市

# 環境

旅行のかたちが変わろうとしてきている。持続可能な社会を目指す現代において、従来の観光スタイルにはさまざまな課題があることが明らかになってきた。例えば、旅行者が過度に集中する地域では、人混みや交通渋滞、インフラの不足、騒音やゴミ問題、そしてそれらを原因とした地域住民と観光客のトラブルなど「オーバーツーリズム」と呼ばれるような状況が頻出している。

そうした課題から生まれたのが、旅行者だけでなく、環境・文化・経済・社会への影響を十分に考え、持続可能で発展性のある旅行を実現する、「サステナブルツーリズム」だ。その考えはヨーロッパを中心に浸透し、日本にもその需要が高まってきている。

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日本国内のサステナブルツーリズムを推進するプレイヤーとして活躍しているのが、観光コンサルティング会社「Tricolage(トリコラージュ)」である。Tricolageは2022年に、日本の事業者として初めて持続可能な観光の国際基準、GSTCのツアーオペレーター認証を取得した。GSTCは、世界のサステナブルな観光認証の中でも最も厳格な基準が定められているものの一つである。

そして、Tricolageをベンジャミン・ウォン氏と共同創業し、同社のCOOを務めるのが、吉田史子氏である。サステナブルツーリズムの推進者として、第一線を走る彼女に、創業の経緯から、さまざまな取り組み、未来へのプランを伺った。

「次からは来ないで」⎯ 失敗から模索した、持続可能な旅のかたち

— まずは、吉田さんのバックグラウンドについてお聞かせください。

吉田史子氏(以下、吉田):大学では地球環境法を専攻しながら、社会問題にも関心があったためクラブ活動では発展途上国の子供たちの教育支援ボランティアをしたり、渋谷のホームレスの方々への炊き出しに参加したりしていました。しかし学生の頃は社会や環境の問題を学びつつも、自分がそこで何の役に立てるかの答えは見えていませんでした。卒業後は、クラブ活動で初めて訪れて以来好きになったインドの巨大IT企業の日本法人で、現地と日本をつなぐブリッジエンジニアとして働き始めました。

 ⎯ 観光やツーリズムからは少し離れたところからキャリアはスタートされてるんですね。

吉田:その後、退職して東京のホスピタリティコンサルティング会社で働き始めました。そこでの仕事は、主に海外の富裕層の方向けに宿泊や移動、レストラン、アクティビティなどを全てアレンジしてコーディネートし、最高のサービスを提供してあげること。日本に一週間くらい滞在されるお客様のご要望をヒアリングして、パーソナルな滞在プログラムを企画して提供するというものです。

 ⎯ 今のお仕事にも通じていそうですが、かなり特殊で繊細な気配りが求められそうな仕事です。

吉田:そうですね、学生の頃はホームレスの方々と肩を並べて炊き出しを食べたりしていたのに…。振り幅がすごいよなと自分でも振り返って思います。

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聞き手の磯江 亮祐/Bipass編集部

⎯ その後、ツーリズムに関心が高まるきっかけはあったのでしょうか?

吉田:原体験として、大きな失敗がありました。あるセレブの方の希望で伝統工芸の工房にお連れした時に、私はそのVIPの方に満足していただけるか、ラグジュアリーな体験をして帰ってもらえるかということばかりを考えてしまって。そのVIPの方の服が汚れないように気は遣うのに、場を提供してくれた工房や工匠の方への気配りをおざなりにしてしまったんです。結果としてその職人さんには「次からはもう、うちには来ないでくれ」とまで言われてしまって…。

⎯それは辛いですね…。VIPの方がクライアントでもあるので、板挟みになってしまう状況も想像できます。

吉田:その時の私は職人さんの仕事に対する誇りや想い、伝統を何百年も続けてきたストーリーに全く焦点を合わせられていませんでした。この「もう来ないでくれ」と言われてしまった失敗によって、未来にいるはずだったお客様が伝統工芸を知る機会を、私が一つ奪ってしまったことになります。もしかするとそのお客様は、その工芸が生き残るのに必要だったお客様だったかもしれない…。いろんな意味で負の影響を及ぼしてしまいました。

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⎯ その原体験がサステナブルツーリズムを仕事にしようというモチベーションに繋がったのでしょうか?

吉田:もっと訪れる地域のことを自分ごとのように汲み取って、彼ら彼女らに対しても持続可能なかたちの観光ができないかと事業を模索するようになり、その先で「サステナブルツーリズム」という言葉や考え方に出会いました。その後、2020年にTricolageを立ち上げましたが、サステナブルツーリズムをやりたくて会社を立ち上げたというより、個人的にぶつかった問題が先にあり、それを解決したくて行き着いた先がサステナブルツーリズムだったというのが本来のストーリーです。

旅行者と地域、双方の声に直接ふれる事業へ

⎯ 観光コンサルティングサービスを旅行者や観光事業者向けに展開するTricolageですが、提唱する「サステナブルツーリズム」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

吉田:まず知っておいて頂きたいのは、いわゆるエコツーリズムやアニメツーリズム、酒蔵ツーリズムなどテーマ性を持ったトラベルとは、コンセプトの考え方が全く違うことです。サステナブルツーリズムは「観光の在り方」という横串であり、基盤になるもの。なのでどんな旅行においても考えることができます。

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Tricolagは東京都の令和5年度事業である「東京島しょ地域のアクセス多様化に向けた企画検討業務」において、八丈島の自然、歴史、文化を活かしたサステナブルツーリズムを地域の事業者と共に企画した。

⎯「サステナブルっぽい」コンテンツの旅を提供しますよ、というレイヤーの話ではないわけですね。

吉田:例えば昔ながらの団体ツアーを実施して、大型バスで50人が一気に来てしまうと対応できる宿泊施設や店舗などの導線は限定されますよね。そうすると、お金が落ちるところと全く落ちないところが明確に生まれ、多様性がなくなっていく。寺社仏閣やお祭り、工芸や郷土料理など、非常に価値があったとしても、外からの接点が持てなければ衰退し、継承していく人がいなければ消えてしまいます。

経済的にも、文化的にも、環境的にも、観光の視点で解決するべき問題はたくさんあります。なので、逆にサステナブルツーリズムでないと、このままだと地域はどうなっていってしまうんだろう? と想像すると、いかにサステナブルツーリズムが重要かがイメージしやすいと思います。

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⎯ 取り組まれている事業内容についても教えてください。

吉田:事業としては主に二つあります。一つはインバウンド事業、もう一つが観光コンサルティングの事業です。インバウンド事業は、海外のお客様が日本にいらっしゃる際に、旅行をオーダーメイドし、企画から当日のサポートまでさせていただくというもの。目的地は東京、京都などのメジャーな主要都市だけでなく、彼らにとっては馴染みのないローカルの小さな村や町も織り交ぜながらプランの中で提案します。

⎯ オーバーツーリズムの解消にもつながりそうですね。

吉田:その観点もありますが、実際に2〜3週間の旅程を終えたお客様にフィードバックをいただくと、有名な観光地よりそういった小さな村や町の体験の方が思い出に残っている、また訪れたいという声をいただくことがとても多いんですよ。こうした旅行者と地域の偶発的な関係性が生まれることは、私たちが理想にしている旅のかたちの一つでもあるので嬉しいですね。

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⎯ 個人の旅行者以外も対象にされているのでしょうか?

吉田:観光コンサルティングに関しては、観光庁や自治体のもとで持続可能な観光に関わる研修事業を運営したり、観光協議会を開催して観光戦略・対策を話し合ったりしています。また、コンテンツ企画やプロモーションのお手伝いもしています。並行して、実際にインバウンドのお客様の依頼があった時に、私たちがコンサルティングしている地域や観光地に訪れていただく。二つの事業が循環するように、両輪で提案と実践をしています。

⎯ 過去にはどのような地域と連携しているのでしょう?

吉田:山梨県北杜市・八ヶ岳南麓エリアのスモールブティックホテル「ホテルキーフォレスト北杜」と共同で、サステナブルな宿泊プランの開発・PRを行いました。

北杜市は自然の豊かさはもちろん、人口に比して国内で最も多くの美術館や博物館が点在している場所です。中村キースへリング美術館、清春美術館、平山郁夫美術館などがあり、アーティストも多く移り住んでいる地域。「ホテルキーフォレスト北杜」はその中で、持続可能な観光地域づくりのハブとして機能することが求められていました。

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八ヶ岳南麓エリアにある芸術のリゾート「小淵沢アート&ウエルネス」が運営する宿泊施設「ホテルキーフォレスト北杜」。

⎯ ホテルの内側のブランディングもサポートされたということでしょうか?

吉田:ホテル施設内での宿泊体験だけでなく、八ヶ岳の暮らしに触れながら、持続可能な一連の旅行体験を提供することが大切だと考えました。例えば、名水を誇る八ヶ岳の湧水やガイドブックには載っていない給水スポットも記載したオリジナルマップを制作したり、中村キースヘリング美術館のマイボトルを当宿泊プランを利用するゲストにプレゼントすることで、湧水地に行くきっかけを提供したり。

また、地域の自然環境や文化をはじめとする、その土地・人々のストーリーを発信するための「サステナブルステイ特設サイト」も開設しました。

⎯ 旅程を用意するだけではなく、ブランディングやクリエイティブに関わる領域にも踏み込まれてるんですね。

吉田:さらに、最終的にチェックアウトするときには投票型のドネーションを用意して、旅行代金の一部を地域の地域の環境・文化・教育などお客様が最も支援したいと思えた領域に寄付できる仕組みをつくりました。旅行を通して、地域との持続的な関係性を実感してもらえるような取り組みになったと思います。

“余所者”ならではの視点で、何度でも足を運ぶ

 ⎯ 前半に原体験となった「失敗」の話もありましたが、吉田さんが旅行者と地域をつなぐ役割を担う上で最も大切にされていることは何でしょう?

吉田:まずは、地域の方との関係性を私がつくるところですね。Tricolageは東京を拠点としていて、私たちにどれだけパッションがあったとしてもローカルな地域の人からしてみたら、どうしたって外部の人間です。これは超えようのないことです。

なので、大切なのは役割分担だと思っています。私たちと同じようなマインドを持っている観光協会や観光事業者の人々は必ず存在していて、全国に散らばっています。どこの町、どこの村に行っても、この地域の魅力を発信して残したいという志を持っている人はいます。まずはそうした同志と手を繋ぎ、輪を広げていく。そして余所者であり少しだけフレッシュな視点を持つ私たちが、アイデアを加えてお手伝いをさせていただく。

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⎯ その地域に長く住んでいることでよく見えることもあれば、見えないこともある。

吉田:そうですね。「うちの地元には有名な文化財も神社仏閣も何もない」と嘆かれる方は多いですが、私たちから見たら工芸、料理、方言、歴史、動物など、好奇心をくすぐられるトピックがたくさんあります。それに私たちが気づくためにも、何度も足を運んで、キーパーソンの方とつながり、時間をかけて信頼と役割を築いていきます。

時間を超えて、誰しもが幸せを感じられる世界

⎯ Tricolageのこれからを伺いたいと思います。これからどういうところに向けて、活動していきたいですか?

吉田:私たちの理念、ビジョンは「誰しもが幸せを感じられる世界をつくる」です。このためにできることは、旅には限らないと思いますが、まずは観光でその世界の実現に近づければと思っています。コロナが収束し、インバウンドの需要が非常に高まっていますが、国内の観光業界の底上げは常に意識していきたいですね。机上のコンサルタントにはなりたくないと思っています。それぞれ生の声に耳を傾け、顔を見て、地域の本来の魅力を言語化して旅行者に伝えていくパイプ役になりたいですね。

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⎯ 今後の取り組みでパートナーシップを組みたいプレイヤーはいますか?

吉田:直近ですと行政、特に観光課や環境課がまず候補に挙がります。何から着手したらいいかわからないという悩みにも、人材育成の観点からもお手伝いできることは多くあると思います。宿泊関係も同様です。インバウンドの方だと、サステナブルなスタンスの宿に泊まりたいという要望が非常に多いです。旅行関係の事業者さんとのコラボレーションも、もちろん歓迎します。

⎯ ダイセルも森林循環の取り組みの中で、地域に分散する資源を技術で価値に変えていこうとしています。そうした工場見学のツーリズムで共創することもできそうです。

吉田:インダストリーツーリズムはテーマとして人気です。例えばネジをつくる町工場に興味を示すお客さんもいらっしゃいます。あるいはサステナビリティというテーマ性を持たせた旅行自体に興味を持つお客さんもいらっしゃって、そういう方々には森林循環と価値への転換というコンセプトは、とても興味深いと思います。“旅”はすごく裾野が広いので、「〇〇×観光」の可能性はこれからも模索し続けたいですね。

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⎯ 最後に、われわれダイセルは「愛せる未来、創造中」というタグラインを掲げています。吉田さんにとっての「愛せる未来」とは、どのようなものでしょうか?

吉田:そのタグラインは、「誰しもが幸せを感じられる世界」という私たちのビジョンにとても近いですね。この「誰しも」は、もちろん旅行者・地域もそうですが、サービスを提供する事業者・そして環境も幸せであるのが理想です。

そして、サステナブルツーリズムは「持続可能」という言葉の通り、タイムラインがとても重要です。今の私が幸せでも、1年後の私が幸せじゃなかったら意味がありません。今の地域の人が満足でも、50年後のその町の子供たちが幸せじゃなかったら意味がありません。誰しもが幸せを感じられる世界、それを持続可能なかたちで、わたしたちはつくっていきたいですね。

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文:杉浦万丈  /写真:福森翔一

吉田 史子

Tricolage株式会社 取締役 COO吉田 史子

Tricolage株式会社 取締役 COO吉田 史子

地球環境法の学位を取得後、多国籍企業での経験を経て東京のラグジュアリーホスピタリティコンサルティング会社に入社。訪日VIP向けプログラムの企画運営責任者として数多くのインバウンド富裕層を迎える。2020年にTricolageを共同創業後は、インバウンド実務で得たサステナブルツーリズムに関する知見と経験を以て全国各地で講演を行ったり、コンサルティングを行ったりと、持続可能な観光の推進に取り組んでいる。

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