INTERVIEW
電力の選択は意思あるアクション― ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来電力の選択は意思あるアクション― ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来電力の選択は意思あるアクション― ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来電力の選択は意思あるアクション― ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来電力の選択は意思あるアクション― ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来電力の選択は意思あるアクション― ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来
池田 将太
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電力の選択は意思あるアクション―ハチドリ電力が目指す、 エネルギーと豊かさをシェアする未来
update 2024.09.27
# 電力
# サステナブル
# 環境
# デザイン
# ビジネス
# ライフスタイル
2016年4月に電気の小売業が自由化され、私たちは電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった。受動的に使うだけでなく、ライフスタイルや価値観に合わせた電力を選べるのだ。太陽光、風力、水力、地熱などの自然現象から得られる、環境に配慮した自然エネルギーの選択肢も増えている。
「ハチドリ電力」は世界14カ国で51のソーシャルビジネス(または社会問題の解決)に取り組むボーダレス・ジャパンが手がける電力事業だ。CO2排出量ゼロの自然エネルギー100%だけのプランにこだわって電力を提供し、住居や耕作放棄地などにソーラーパネルを設置し発電する「ハチドリソーラー」の事業とも密に連携している。
2024年現在、ハチドリ電力の事業代表を務める池田将太氏は、ハチドリソーラーの代表取締役社長を兼任している。1998年生まれ、26歳の池田氏は、学生時代にミクロネシア連邦を訪れた際に環境問題の深刻さと人の温かさに触れ、社会起業を志したという。電力を通じて社会を変え、豊かさを分かち合える未来を目指す池田氏に話を伺った。
友人の家が海に消えた。ミクロネシアで見た風景
—池田さんのバックボーンについて教えてください。
池田将太 氏(以下、池田):小学校から高校まで野球一筋でプロを目指していましたが、実力が足りず、学業も振るわなかったため、高校の担任の紹介でどうにか大学に進学しました。何に情熱を注ぐべきか迷っていたとき、JICA(国際協力機構)出身の教授から「池田くんはエネルギーがあるのだから、何か社会の役に立つことをしなさい」と言われ、ひとまず海外に行ってみることにしたんです。
—最初はそれほど前向きな動機ではなかったのですね。
池田:はい。そうして人生で初めて訪れた外国がミクロネシア連邦でした。自然に恵まれ海も綺麗で、素朴に楽しんだことを覚えています。ミクロネシア連邦は当時の平均月収が日本円にして4万円程度で、自給自足な生活を送っていると聞き、金銭的には恵まれない状況かと思っていたのですが、一緒に過ごす中で彼らの暮らしぶりにはむしろ豊かさを感じました。私を家に招き入れてご飯をたくさん食べさせてくれるし、優しい声もかけてくれて、心が温かくなった。彼らのために何かをしたいと思い、環境問題に真剣に興味を持つようになりました。
池田将太氏/ボーダレス・ジャパン ハチドリ電力事業代表・ハチドリソーラー 代表取締役社長
池田:最初は廃棄されたタイヤからサンダルを作るアップサイクル事業に取り組んだのですが、事業計画も予算の立て方もわからず、融資を受けられず学生起業には至りませんでした。それでも諦めきれず、社会に出てから起業できる最短経路を探した結果、社会課題を解決する起業家が集うボーダレス・ジャパンに就職を決めました。
私はミクロネシア連邦でエネルギー事業による雇用創出を志し、まずは国内での発電事業に取り組む「ハチドリソーラー株式会社」を2022年に創業しました。その後、2023年12月にはボーダレス・ジャパンの事業として先行していた「ハチドリ電力」の代表も兼任する形になりました。
—なぜエネルギー問題にフォーカスしたのでしょうか。
池田:ミクロネシア連邦で暮らす友人の家が、海面上昇の影響で流されてしまったんです。日本でも地球温暖化の話は聞きますが、実際に住む場所がなくなるという現実は衝撃的でした。このまま温暖化が続けば、10年後にミクロネシア連邦が海の上にあるかもわからない、そんなリアリティを感じました。
日本において、地球温暖化の主な原因であるCO2の排出量の40%以上が発電によるものです。そして、その電力の約80%が火力発電によって供給されており、自然エネルギーの利用は全体の2割程度に過ぎません。環境への負荷が大きい火力発電を使い続けるのではなく、自然エネルギーに切り替えることが地球温暖化の解決につながると考えました。太陽光発電を選んだのは、風力や水力よりも導入コストが低く、普及しやすいと判断したからです。
聞き手の磯江亮祐/Bipass編集部
自然エネルギー100%の電力で、日常から社会に貢献する
—ハチドリ電力の特長について教えてください。
池田:ハチドリ電力はCO2排出ゼロの自然エネルギー100%だけを販売する小売電気事業者です。火力発電との併用プランなどは用意せず、料金プランは一つだけ。これは、地球温暖化を止めることを目的としているからであり、他の電力事業者にはない特長です。
また、自然エネルギーの発電量自体を増やしていくため、支払われる電気料金の1%を「ハチドリ基金」としてストックし、環境にやさしい発電所の増設費用に回しています。ソーラーパネルを設置する場所は、戸建ての住居や耕作放棄地などで、山を切り開くような大規模な開発は行っていません。あくまでも環境を第一に考えた発電所づくりにこだわっています。
ハチドリ基金で設置されたソーラーパネル。農地の上にパネルを設置することで、作物の生産と発電を同時に行う、次世代農業が可能になる。
池田:電気代のもう1%は、ハチドリ電力と連携する60以上の社会貢献団体から選んで寄付できます。自然環境の保護や防災、まちづくりなどテーマも様々。寄付文化の薄い日本でも、無理なく社会活動を応援できる仕組みを意識しました。
最後の特長は、ハチドリ電力の個人向けプランの運営費用を利用量に関わらず毎月550円と定めていることです。多くの電力事業者は利用量に応じて料金が計算されるため、ユーザーが省エネを実践すると会社としての収益が下がるといった矛盾した産業構造があります。運営固定費を定めることで、自然エネルギーが高価であったり、変動性が極端に高かったりというイメージを払拭し「使わない理由がない」サービスになることを目指しています。電気料金を抑えながらも、同時に家庭で使う電気を通して社会をよくすることができる仕組みを提供しています。
ハチドリ電力の料金イメージ
—ソーシャルグッドであるから選ぶのではなく、価格的にも無理なく利用できる電力プランになっているのですね。社会的な価値とビジネスの両立は難しいと思いますが、どのようにバランスを取っていますか?
池田:私たちの絶対に揺るがない軸は、この事業を拡大させて社会課題を解決することです。自然エネルギー100%の電力を提供することで地球温暖化の解決に取り組むことは「決められた使命」であり、収益性はその後のビジネスサイドで考えるものです。ここでブレイクスルーが得られないのであれば、そもそもサービス自体が世に出るべきではないかもしれません。まずは社会的な価値を定め、その後ビジネスとして創意工夫するという順番が変わることはありません。
意思ある「クルー」と環境問題に取り組む
—ハチドリ電力の利用者さんには、どのような方が多いのでしょうか?
池田:こちらが驚くほどに、環境や社会問題への意識が高いお客様が多いです。自分の消費行動に対して責任を持っている。そのためか、ハチドリ電力の解約率は1%と非常に低く、新規で加入する方も40%は知人の紹介です。自主的にアンバサダーとしてハチドリ電力を紹介してくれたり、私たちに事業改善のアイデアも伝えてくれたりする。お客様ではありますが、同じ船に乗って共通の目的に向かって進む「クルー」という感覚が強いですね。
しかしながら、電力事業は社会の変動にも晒されます。価格変動制のプランを導入していた頃、戦争の影響で電力の値段が高騰したことがありました。お客様に高騰する電気料金の負担をかけられまいと思い、会社として3億円ほど高騰分を負担した過去があります。そこから、このようなリスクをお客様に背負わせるべきではないと考え運営固定費制を取り入れました。価格が高騰した際は、他電力事業者への切り替えを進めたこともあったのですが、ハチドリ電力を応援し続けてくださるお客様がいらっしゃいました。たくさんの皆様に支えられて、事業成長ができていると強く感じています。
聞き手の後藤友尋/Bipass編集長
—電力会社を自由に選べる環境でも、意思を持ってハチドリ電力を選んでくれていたのですね。
池田:ハチドリ電力の利用者は個人が7割で、一人ひとりが意思を持って選んでくれています。一方で私たちは、自然エネルギーを使っていただけるのであれば、必ずしもハチドリ電力でなくても良いと考えています。国内電力市場は15兆円規模ですが、新電力に切り替えた人は全体の17%しかいません。私たちが目指すのは、この17%をさらに広げていくこと。だからこそ、他の電力会社とも協力し、ムーブメントを起こしたいと考えています。小さな市場で利益を奪い合っているのでは、自由化以前と何も変わらない。自然エネルギーの利用者が増えていくことは、新たな再エネ市場がしっかりと生まれることを意味します。その中でも「ハチドリ電力」を選んでいただけるお客様が一人でも増えるようにサービスを磨いていきたいと思っています。
—自然エネルギーの利用率を広げていくためには、法人のパートナーも必要になりそうですね。
池田:そうですね。たとえば全国展開する飲食チェーンやアパレルブランドがハチドリ電力に切り替えたら、きっと大きなインパクトがありますよね。自然エネルギーに関心を持つ企業は多いので、積極的にアライアンスを深めていきたいです。また、ハチドリソーラーではハウスメーカーと連携して、新築の家を建てるときにパネルを設置するプランも生まれました。
地球温暖化や環境問題への取り組みはチーム戦です。一人や一社では解決できないから、少しでも多くの方を巻き込んで、関係人口をどう増やすかが大切。意思を持って選んでくださる個人の方や、社会に影響のある法人の方たちから、もっと力をお借りしたいと考えています。
ハチドリソーラーの太陽光パネル設置イメージ
ハチドリソーラー 4つの特徴
次のヒントは地域にあり。仕組みで社会を変えていく
—ハチドリ電力やハチドリソーラーの利用者が広がっていますが、目指す指標はあるのでしょうか?
池田:歴史上あらゆる非暴力の社会活動において、3.5%の人が参加したものは全て成功したと言われています。そして私たちは、自然エネルギー100%の電力を利用することも、一つの社会運動だと捉えています。そこで、まずは2030年に国内の電気契約者の3.5%である、200万人にハチドリ電力を使ってもらうことを目指しています。今は知る人ぞ知るサービスのような位置付けですが、「何か良いことをやっている」くらいでは終われない。より大きなムーブメントに繋げていきたいです。
—さらに大きく社会を変えるために、具体的に取り組んでいることはありますか?
池田:自然エネルギーは天候によって発電量も変わりますし、遠い場所への送電には大きなロスも伴います。それに対し、特定の地域内で複数の発電設備や電力を管理し、効率的に電力の需給バランスを取る「エリアアグリゲーション」という仕組みがあるんです。地域ごとに自然エネルギー100%を達成して、それを47都道府県分やり切ったら日本全国で達成できますよね。
電気を変えるだけで地域を応援できるなら、その地域から外に出た人でも関わりやすい。地域から再生エネルギー100%を達成するために、自治体とも密な連携を始めている最中です。
—地域への貢献を可視化するのは面白いですね。電力はいろいろなことができるのだと感じました。
池田:そうなんですよ!電力って面白いんです。今の若い世代は「電力会社」と聞いても魅力を感じづらいかもしれませんが、テクノロジーや仕組みでできることはいくらでもある。奥深くて専門的で、社会の基盤を技術で支える「クライメイトテックカンパニー」を目指していきたいです。
私個人は2024年から環境省の委員に選ばれ、2050年のカーボンニュートラル達成に向けたエネルギー基本計画の策定にも携わっています。これまでの計画を精査してみると、未来の技術革新に期待するような、無責任な内容ばかりに思えました。今の日本の制度は堅苦しく、エネルギーが普及するための設計になっていませんから、その前提から変えなければいけないと強く実感しています。
豊かさを分かち合うことこそ愛せる未来
—ダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで誰もが愛せる未来を描いています。池田さんにとっての愛せる未来を教えてください。
池田:ミクロネシア連邦の人々から、食事を振る舞ってもらったり「ありがとう」という言葉をかけてもらったりした経験を通じて、大きな愛を感じました。私にとっての愛せる未来とは、こうした「豊かさ」をみんなでシェアし合える未来です。
しかし、現実にはエネルギーをはじめとする有限の資源を奪い合う状況があります。資本主義的な考え方では、物や利権を多く持つことが豊かさとされる一方で、そこにアクセスできない人も存在する。まずは、人が生きるために必要な基本的な権利を満たした上で、今持っているものを他の人とシェアすることで、豊かさを分かち合えるはずです。
池田:今はエネルギー事業に取り組んでいますが、自分が出会った社会問題はできる限り解決したいと思っているんです。自分は何不自由なく生活できているからこそ、これまで出会った人や地域、国にギブしたいと思うし、力になりたい。
私も地域の人たちにお世話になってきましたが、今は地域の連帯がマイナスに振れて負の連鎖が起きることもある。こうした現状を変え、豊かさの連鎖をつなぐのは「仕組み」しかありません。自分が関わることで生まれる何かによって、豊かさの基盤をつくり上げることに、人生をかけてコミットしていきたいです。私はソーシャルビジネスを通じて「世界を平和にしたい」と思っています。
そして、そんな私たちと一緒に挑戦してくれる仲間も募集しています。興味を持った方は、ぜひご連絡ください!
事業名の由来は南アメリカに伝わる民話「ハチドリのひとしずく」。森で火事が起き、周囲の生物が逃げ出す中でも、くちばしで水滴を一滴ずつ運んでいたハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と語る。一人にできることが、みんなでできるようになれば、いつか社会も変えられるはずだ。
ハチドリ電力 HP
https://hachidori-denryoku.jp/
ハチドリソーラー HP
https://hachidori-denryoku.jp/solar/
文:淺野 義弘/写真:福森 翔一
ボーダレス・ジャパン ハチドリ電力事業代表・ハチドリソーラー 代表取締役社長:池田 将太
ボーダレス・ジャパン ハチドリ電力事業代表・ハチドリソーラー 代表取締役社長:池田 将太
1998年7月生まれ。千葉県船橋市出身。小学校から高校までプロ野球選手を目指して野球に熱中する。大学に入学後、JICA出身の恩師に出会い国際協力活動を開始。ミクロネシア連邦にて廃棄物を活用したプロダクト開発、環境活動に従事。在学中、ボランティア活動の限界を感じ起業家を志し、金融機関を回るもお金を借りられず断念。大学卒業後、株式会社ボーダレスジャパンに社会起業家として参画。2021年10月、「自然エネルギーが主電源の未来を創る」をミッションに初期費用0円で導入できる定額太陽光サービス「ハチドリソーラー」を創業。現在は同社の代表取締役を務めている。 また、2023年12月よりボーダレス・ジャパンのハチドリ電力事業の責任者に就任し、2事業の代表を務めている。その他にも環境省 気候変動対策小委員会、一般社団法人子ども水力発電所理事も務めており、自然エネルギーを軸に地球温暖化の解決に奮闘中。
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