INTERVIEW
人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。 自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは 人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。 自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは 人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。 自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは 人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。 自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは 人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。 自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは 人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。 自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは
榎原 友樹
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人と町の化学反応がゼロカーボンを面白くする。自治体と未来のモデルをつくるための計画×実践とは
update 2024.02.26
# 研究
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# 環境
2050年に温室効果ガスの排出量を社会全体で“ゼロ”にする。国が掲げている、2050年カーボンニュートラルの実現目標だ。社会全体が変わるには、生活者目線の取り組みが欠かせない。そこで国は2020年より、生活者が根付く“地域”で脱炭素を進める検討を開始。2021年に「地域脱炭素ロードマップ」を策定し、脱炭素を進めながら、地域課題の解決に取り組む自治体の支援を開始した。
ロードマップの軸は、「地域発の“脱炭素ドミノ”」。脱炭素の取り組みを先行的に行う地域をつくり、全国へ伝播させる構想だ。環境省が中心となり、再生エネルギー事業や省エネなどの取り組みを資金・人・技術面などで支援するという。そうした流れから、「ゼロカーボンシティ宣言」を表明する地方自治体が増えている。
地域のゼロカーボンを実現するため、現地に必要なものは何か。そんな疑問に答えてくれたのは、地方自治体の計画遂行に入り込んで推進してきた、榎原友樹氏だ。自治体の環境政策を支援するコンサルティング会社、株式会社E-konzalを率いながら、大阪の能勢・豊能まちづくりや、まちと里を木でつなぐ「江坂ひとときプロジェクト」を手がけている。
実際に社会を動かしていくプレイヤーになるため、大手コンサル会社を辞めて独立したという榎原氏。事業者の一員として自治体と共に動く中で見えた、地域で動きをつくる秘訣や求められていることについて、Bipass編集部が話を伺った。
実際に社会を動かすため、計画と実践をつなぐ
―様々な事業を手がけられていますが、E-konzalを立ち上げた背景から教えていただけますか。
榎原友樹氏(以下、榎原):前職はみずほ情報総研株式会社(現・みずほリサーチ&テクノロジーズ)で、環境政策をサポートする仕事からキャリアが始まりました。そこでたまたま温暖化の担当になったんです。当時は「京都議定書」の枠組みが中心で、温室効果ガス排出量の6%削減もできるかどうかという世の中でした。
一方で、入社する少し前に、温暖化の状況を踏まえ2050年から逆算して70%~80%削減する社会にしていく必要がありそうだという考えが出てきて、どうやったら実現できるかを考える大きな研究プロジェクトが立ち上がりました。ちょうどその時期に入社したので、担当を任されました。
―急に大役ですね。
榎原:当時はどこに行っても「そんな削減できるわけないだろ!」と呆れられました(笑)。次第に海外でこうした大幅削減のシナリオアプローチがトレンドになり、国内でも議論するようになっていきますが、具体的な一歩が進まない。地方自治体のコンサルもしましたが、計画をつくってもほとんど動かないので、徐々にもどかしさを感じるようになりました。最後の数年間は、鳩山政権下の温室効果ガス25%削減のシナリオをつくる仕事もしていましたが、社会インパクトや知名度は全く無くて。「これじゃあいくらやっても変わらない、政策をつくる人と実践する人たちをつなぐような、実際に社会を動かすプレイヤーが少ないのではないか」と気づいて、自分がハブになってみたいと思ったんです。それが2012年で、当初は1人で仕事を始めました。
榎原友樹氏/株式会社E-konzal 代表取締役/株式会社能勢・豊能まちづくり 代表役員/江坂ひとときプロジェクト プロデューサー
―政策やロードマップができたらそれに向かって動きだすイメージでしたが、実際には難しさがあると。間をつなぐために立ち上げたE-konzalでは、どのようなアプローチをされていますか。
榎原:実践するところまで本気で長く取り組める自治体と組むことを重視しています。計画を立てて終わり、という仕事はしない方針です。会社の人的リソースが限られているという側面もありますが、計画立案のためではなく、本気で物事を動かそうとしている自治体にリソースを割きたいという想いからです。
―具体的にはどんなツールを提供しているのでしょう。
榎原:計画をつくる際の大きな仕事の1つは、過去の排出量の推計なので、それをサポートするツールを提供しています。実は排出量の統計は、自治体レベルではほぼなくて、都道府県レベルの統計を按分しているんです。按分には人口・世帯数・GDPなどを使い、指標に応じて合理性を持たせています。ただ、こうした手法を使って排出量を推計した場合、地方自治体が実施した対策の効果は、その排出量にほぼ反映されない。特に規模の小さい町などは、実際には大きな効果があったとしても県レベルの平均値に引っ張られて、その効果が数字上に表れないんです。
―精緻な実態が見えづらくなっていると。
榎原:その手間のかかる推計を私たちが代わり、全1,741団体分をデータベース化した「E-CO2 STELLA(エコツー・ステラ」を無料公開しています。環境省よりも分解度を細かくして、実態に近い数値を出しているので、これを使えば過去のレポートがつくれます。
―無料で公開されているのは素晴らしいですね。すでにこれを指標としている自治体もあるとか。
榎原:計算や計画策定に払うお金があるなら、排出量を減らす方に使ってほしいんですよね。なので、対策シナリオをつくるツールも要望に応じて無料提供しています。その上で「計画策定も手伝いますが、その先(事業)にも責任を持って入らせてください」と言って、半分事業者みたいな感じで入っています。例えば、公用車のEV化であれば実行フェーズで事業者をつないでハブ役として動き、またその効果を定量化・可視化して、政策提言までつなぐ。E-konzalではそうした実践に近づく取り組みを最も重視しています。
全基礎自治体の脱炭素シナリオ検討ツール「エコツー・ステラ」。全ての自治体について、エネルギー種・部門別に詳細な推計を行っており、自治体ごとの主要な排出源が一目でわかる。
サステナブルな取り組みが“得”な仕組みをつくる
―自治体に限らないかもしれないですが、そもそも脱炭素を進める際にはどのような手段がありますか。
榎原:ネット“ゼロ”を目指しているので、基本的には今の排出量を9割くらい減らす必要があります。なのである意味手段はシンプルです。まず、直接燃やす行為をできるだけ減らす。家庭用のガスも含め、あらゆるものを電化することです。ただ、製造プロセスや長距離貨物輸送など、産業領域では燃料でないと難しい部分がある。その必要な分だけ燃料を使って、燃料もできるだけ負荷の低いものにシフトさせ、排出したCO2は別の用途で使う仕組みをつくる、というのがほぼ唯一解なんです。
―手段は限られてきそうですが、わかりやすいですね。
榎原:ただ自治体も予算やリソースが限られてるので、進めたくても進められない状況もあります。前職では、自治体の予算が計算までしか取れずに終わってしまうケースがしばしばあって、歯がゆい思いをしました。ただ、ヨーロッパなどでは状況が全く違っていて、制度や文化が変化しながら、明らかに社会全体がその方向に向かっています。
―文化とはどういったものでしょう?
榎原:人が我慢して減らせる分量って、そんなには多くないんですよ。削減した方が“得“というルールに変えないといけないと思っています。例えば北欧など、自動車の電動化が進んでいるところは圧倒的に電気自動車(EV)の方が安い。ガソリン車には高額な炭素税がかかっているので、日本とは違って購入ハードルが高いんです。だから2022年あたりで新車導入台数の8割がEVになっていますが、日本は約2%。相当な開きがあるのはルールの問題が大きくて、環境対策以前に仕組みの問題なんです。
―確かに、中国・上海でもそういう動きがありますね。ガソリン車は新しくナンバーを出すのに2年かかるけど、EVは2週間だという話も聞きます。
榎原:人の頑張りに依存するのではなく、排出量を減らす手段をとることが得なルールに変える。その際に検討材料として使える、成功事例やモデルとかをつくり出したいと思って日々取り組んでいます。
左:Bipass編集部メンバー佐藤・磯江/右:榎原氏。取材は大阪・能勢町役場の一室にて行われた。
実践を通じて、地域に必要なルールを見出す
―その辺りは、能勢・豊能まちづくりにもつながる部分かと思います。榎原さんが、能勢・豊能で活動されるようになったきっかけとはなんでしょう?
榎原:きっかけは九州のある自治体が進めていた「地域新電力」事業です。その自治体では自治体が電力会社を運営しながら、データを使って高齢者の見回りなどをする、ドイツの「シュタットベルケ」という先端的なモデルを実践していて。僕もご縁があり事業を手伝っていたところ、能勢町役場の方々が視察にこられて、能勢のエリアにもぜひ取り入れたいと申し出てくれたんです。それから、1年間環境省の事業で実現可能性調査をして事業モデルを構築して。その後1年くらいかけて地域を回って、想いに共感してくださった株式会社冒険の森から出資を受けられることになり、会社を立ち上げました。
―能勢・豊能まちづくりで行っている事業についてもお伺いできますか。
榎原:株式会社能勢・豊能まちづくりでは、地域新電力事業を柱に、再エネ・省エネなどに取り組んでいます。メインは、地域の発電者と電力需要者を結ぶ小売電気事業ですね。電気は、クリーンセンターの廃棄物発電や環境負荷の低い電気を選定して調達しています。事業で得た利益はまちづくりに還元して、さらに地域の利用者を増やしていい循環を生み出す、というビジョンを描いています。
地域新電力ではそのほか、役場向けのサービスを提供しています。役場の屋上に太陽光発電を設置して、初期費用を当社が負担し、自家発電で下がった料金分を10年間当社に支払ってもらう仕組みです。
大阪府最北端に位置する能勢町は町内全域が標高200m。「大阪の軽井沢」「大阪のチベット」と表現されることも。
―役場はこれまでの通りの電気料金を支払うだけで、CO2削減に取り組むことができるということですね。
榎原:はい、約2割CO2フリーの電気を使えて災害対策にもなりますし、10年経てば自由に使えることもメリットです。ぶっちゃけ当社のメリットはほとんどないのですが…(笑)。なにより、モデルとして実践して発信することに価値があると考えています。
―多少は身を切りながらも、未来のルールを変えるために事例をつくっていくことが大事だと。
榎原:綺麗に絵を描いても、実現までには距離がありますからね。絵を描くだけではルールは変わらないので、半分実践に身を置いて苦労を体験した上で、残りの半分で政策・ルールを提言する。自治体に対してよりも、最終的には環境省や経済産業省といった大枠のルールをつくっている主体へそれを伝えたいんです。地域が求めているのはこういうことで、ここを変えれば実現できますよ、と。モデルケースを手がけていけば、そのために必要な制度も見えてくる。それまではあがきながら、実践していくしかないと思っています。
過去には豊中高等学校能勢分校の生徒と協力し、太陽光発電の設置ワークショップを実施。地域の学校でかつて利用されていた中古の太陽光パネルを再利用し、生徒が通学時に使っているE-bike等の充電に活用した。
―ご苦労が絶えない一方で、楽しそうに話されている姿が印象的です。
榎原:すごく楽しいですよ(笑)。ただ、こういう取り組みができている理由の一つは、能勢町のポジティブさだと思います。新しい挑戦的な取り組みに対して、どうしたらできるかを考える自治体なんです。これまでの経験上、最初からそこに視点がある自治体は本当に少ない。できない理由やリスク側を見る自治体が非常に多い中で、稀有な存在です。
―能勢町の皆さんの感度の高さや、フットワークの軽さも魅力的ですね。
榎原:組織が大きすぎないことや、担当者一人一人の担当領域が広く責任感を持って動いてらっしゃる部分大きいと思います。もちろん全てのアイデアが通るわけではありません。ただ、まだ定まりきってないアイデアの段階でも、面白そうと感じれば「ほな、やってみましょうか」と動いてくれる自治体は珍しいですよね。本当に色々チャレンジさせてもらっています。
立場の違う人々だからこその化学反応「江坂ひとときプロジェクト」
―E-conzalは大阪・吹田市でも、街と里を『人』と『樹』でつなぐをテーマにした「江坂ひとときプロジェクト」をスタートされています。こちらについても始められたきっかけを教えていただけますか。
榎原:直接のきっかけは、亡くなった僕の父親です。生前、吹田市・江坂にあった父親の所有していた土地の建物が老朽化したので取り壊すことになりました。その土地の今後を検討していた時に、「環境の仕事をしてるのなら、次の世代のための何かを考えてみたら」と父に言われたんです。そこからアイデアを考え始め、プロジェクトを始めようとした矢先に父が亡くなってしまって。これは遊びではなく本気で取り組もうと考えました。
―そんな想いのもとはじまったものなのですね。すでにどんな構想があるのでしょうか。
エネルギー収支がゼロの「ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)」の建築物を立てる計画が進んでいます。カフェ、シェアキッチン、木工スペースなどがあり、まちなかで里山の自然を感じられるような体験型の施設を目指しています。建築用の木材は能勢産の広葉樹を活用するなど、地域産材の活用にも寄与しながら里とまちをつなぐ拠点にするというコンセプトが出来てきています。
「江坂ひとときプロジェクト」では、里山暮らしに関心のあるまちの人たちに身近な里山体験を提供しつつ、まちと里の課題を共有し、相乗的に課題解決を目指す。
―このプロジェクトに参加しているのはどんな人たちですか。
榎原:建築士、地域の事業家、ママさん、木工が好きな人、飲食店を志している人、森林組合の人などバラバラです。現段階では僕たちの会社も事業として関わっているわけではないので、全く誰もグリップしていません(笑)。関わりたい人たちがウワサを聞いて集まってきている感じです。ただみんな、自分の地域や里山を何とかしなければという問題意識を持っていて、自発的にアイデアを出して行動してくれていますね。
―完成が楽しみですね。出来上がった後は、どういう人に集まってほしいという想いはありますか。
榎原:まずは、里山に興味はあるけど接する機会のない、都会に住んでいる人たちに来てほしいです。都会側の人たちは、田舎に興味を持っていて、自然体験したいけどなかなか能勢まで来ない。能勢サイドはみんなに来てほしいからイベントなどを開きますが、都会の人と上手くつながらない。なので、そこをつなぎたいと思っています。
―そこで一緒に新しい仕掛けをつくるような流れが生まれれば面白そうですね。
榎原:第2の田舎じゃないですが、お互いに持っているものを組み合わせる場になったらいいと思っています。能勢・豊能だけじゃなくて、例えば海側の人にも来てほしい。社会人だけではなく学生も巻き込みたい。立場は関係なく、木や農業、教育など、好きなことや興味があることで集まって、秘密基地みたいに「もっとこんなことやろうよ」という企みが始まる場になると面白いですよね。
―地域性のあるプロダクトや商品がそこから生まれていくこともありそうですね。我々ダイセルもそこの取り組みではご一緒できる可能性がありそうです。
榎原:それは面白いですね。今僕らも色々と試行錯誤していまして、例えば木を使った酒造りにもトライしています。地域や木材ごとに味や香りが違うかもしれないと考えていて、ワクワクしながら実験しています。
―最後に、私たちダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで、誰もが愛せる未来を描いています。榎原さんにとっての「愛せる未来」は、どのようなものですか。
榎原:E-konzalや能勢・豊能、ひとときプロジェクトもそうなんですけど、立場や専門性が違う人たちが集まって何かをやることって、めちゃくちゃ面白い。バックグラウンドが違う人たちが集まると、化学反応のように色が変わって、全く違うものが出てきます。能勢・豊能まちづくりでも、意図的に外から企業人や大学の先生に参加してもらっていて、彼らの領域ではできないことが自治体のフィールドでは可能だったり、逆に自治体の人は、研究者のノウハウ・取り組みのお墨付きを欲していたりします。同じ想いを持つ違う立場の人がつながれば、世の中はダイナミックに動くと思っています。
今後の社会で、脱炭素に向けた大きな変化があるのは間違いありません。どの程度そこに貢献できるかはわかりませんが、チームの一人のプレイヤーとして「社会の変化にインパクトを残せた」「一緒に時代をつくれた」と実感しながら、棺桶に入れたら最高ですね。
TEXT:Ro Sanbe/Photo:Shingo Matsuoka
E-konzal 代表:榎原 友樹
E-konzal 代表:榎原 友樹
1977年生まれ、大阪府出身。京都大学工学部地球工学科(資源工学専攻)を卒業後、英国レディング大学にて修士号(再生可能エネルギー専攻)を取得。民間シンクタンクにて勤務後2012年6月に独立。京都を地盤に環境・エネルギー問題の解決に全力を注ぐ。
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