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社会も課題もシンプルじゃない。 剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく社会も課題もシンプルじゃない。 剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく社会も課題もシンプルじゃない。 剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく社会も課題もシンプルじゃない。 剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく社会も課題もシンプルじゃない。 剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく社会も課題もシンプルじゃない。 剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく

峯村 昇吾

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社会も課題もシンプルじゃない。
剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく
造形構想株式会社峯村 昇吾

社会も課題もシンプルじゃない。剥き出しの「わからなさ」との対峙が、アパレル産業を未来に進めていく

update 2024.03.13

# サーキュラーエコノミー

# ファッション

# アート

# プロダクト

# ビジネス

# デザイン

持続可能な社会を目指し、日々新たな素材やソリューションが生まれている。それら一つ一つは世の中を良くするためにつくられたものであっても、どこかで意図せぬ結果を招いてしまうこともある。誰かにとっての正しさが、他の誰かにとっても正しいとは限らない。そんな複雑な世の中で私たちは暮らしている。

造形構想株式会社の峯村昇吾氏は、そんな社会の複雑さとアパレル産業で向き合ってきた人物だ。誰もが良い社会を目指しているが、そもそも誰と手を繋げばいいかも定かではない状況を前に、闇雲な解決策を打ち出すよりも、まずは現状を正しく認識し、ありのままの姿をビジュアライズすることに取り組んだ。

その成果である「ファッション産業のサーキュラーダイアグラム」には、素材の生産や縫製といった動脈領域はもちろん、廃棄や回収といった静脈領域まで幅広いプレイヤーがあまねく描写されている。複雑な全体像を前にした人々は一度戸惑うが、その複雑さをありのまま受け止め、分からないなりに議論を進めていくことこそ、次の社会への足掛かりになるという。課題を矮小化せず、コミュニティに閉じこもることもしない。虫の目と鳥の目を切り替えながら、剥き出しの「わからなさ」と対峙し続ける峯村氏に話を伺った。

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アパレル業界で働き「循環」に向き合う

——「Bipass」は資源の新しいルートを探るメディアです。産業全体を俯瞰し、デザインの力で課題を可視化する峯村さんの取り組みは、資源の新たな行き先を描くためにも欠かせないものだと感じています。まずは現在までのキャリアを教えてください。

峯村昇吾氏(以下、峯村):大学では経済学部に所属し、ずっとファッションが好きだったので、卒業後は繊維の専門商社に入りました。ものづくりをする工場と、販売先である小売の間で勤めるうちに、繊維業界の全体像や課題もわかるようになりました。その後、創業期のファッションテックベンチャーに転職してからは、ブランディングやマーケティングといったビジネス戦略領域からクリエイティブまで幅広く担当していました。

UXデザインやサービスデザインも独学していましたが、伝えたい内容が伝わり切らないもどかしさを感じることもあって。デザインを体系的に学び、業界が抱える複雑な課題をしっかりと伝え切る力をつけるために、武蔵野美術大学大学院造形構想専攻で学ぶことを決めました。在学中に自分の会社も立ち上げましたが、所属していたベンチャーを退職して本腰を入れ始めたのは修了後のことです。

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峯村昇吾氏/造形構想株式会社 代表取締役

——自分の会社だけに注力しようと決めたきっかけは?

峯村:アパレル産業で大量廃棄や不適切な労働のあり方なども目にするうちに、自分の中で「もっとこうあるべき」という思いが強くなっていきました。しかし、一社員として働く中で、自分の理想とは異なる業務に従事する場面もあり、ある種のジレンマを抱えていたんです。

また、大学院でアパレル産業のサーキュラーエコノミーを研究するなかで、「循環」というキーワードは自分の人生の軸になるテーマだと確信しました。ライフテーマとして向き合うためには、今までの仕事も辞めてリソースを集中させないといけなかった。今思えばこれといった勝算もない状態でしたが、根拠のない勇気を持つことも大事だったと思います。

複雑さを複雑なまま表現する「サーキュラーダイアグラム」

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——峯村さんが発表した「ファッション産業のサーキュラーダイアグラム」には大きなインパクトがありました。アパレル産業の構造が浮かび上がってくる、この複雑なダイアグラムの制作背景について教えてください。

峯村:デザイン研究の分野には「ウィキッドプロブレム(極めて厄介な問題)」という言葉があり、わかりやすいソリューションが機能しない、幾多の要素が複雑に絡み合う状況を示す概念として認知されています。トレードオフの関係にあるものがあまりに多く、Aを解決したらBに問題が生じてしまうような現代においては、従来のような「問題解決」ではなく「問題提起」を行うほかないという議論が起こっている。

ファッション業界に目を向けても、個別の企業がエコフレンドリーな商品やサービスをリリースしたとしても、それがむしろ消費行動と生産を加速させ、産業全体としての環境負荷が膨れ上がってしまうような状況がありました。

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聞き手の後藤友尋/Bipass編集長

——課題が複雑化する現代において、個別の製品やサービスだけでは産業全体の課題に対処できなくなっている。

峯村:サステナビリティやサーキュラーエコノミーに関して、アパレル分野で業界を横断した取り組みも始まっていたのですが、専門機関としての最初のアクションは、バリューチェーン全体を把握することでした。裏を返せば、自分たちにどんなステークホルダーがいて、何をしているかが明確ではなかったということです。

産業全体の動きや課題がわからないのに、ソリューションとされるものを打ち続ける構造は、非常に危うい矛盾を抱えています。こうした不明瞭な課題と不適切なソリューションが続く現状を変えるためには、まず現状をしっかり把握する必要があると考えました。

産業全体にどんなステークホルダーが存在しているのか。その人たちがどうやって物や価値の流れを作り出しているのか。これらを丁寧に掘り下げ、正しく詳細な現状把握に努め、大学院の修了制作としてまとめあげたものがこのダイアグラムです。課題解決を急ぐのではなく、そもそも何が問題であるかを考えるための研究成果なのです。

立場を超えたコミュニケーションを促すために

——「ファッション産業のサーキュラーダイアグラム」を公開したことで、周囲からはどのような反応がありましたか?

峯村:このダイアグラムが媒介となって、いろいろな人との対話や議論が生まれました。アカデミアの人たちはもちろん、素材業者や小売業者から、商社として間に立つ人まで。ウェビナー形式で公開討論会を開いたら、産地の方まで積極的に参加してくれました。

毎回議論のトピックは尽きません。例えば大量に回収した古着は海外に輸出され、流通の過程で困っている人を助ける一方で、地場産業の自立や発展を阻害しているかもしれないと話したり。輸入廃棄物で生計を立てる人や、既存の生産工程でキャリアを形成してきた人もいる中で、大量生産品を完全に無くすことの是非が問われることもありました。新しい静脈産業のプレイヤーが生まれることで、既存のプレイヤーたちが痛みを被るのではないか考えたりと、視点やテーマは多岐にわたります。

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峯村:ダイアグラムを見ながら数々の問題に向き合ううちに、対話の参加者はどんどん「答え」がわからなくなっていくんです。でも、その反応こそ正しくて。簡単には答えの出ない厄介な問題に直面していることを認識し、そこに向き合い、立場を超えて対話できること自体に価値があると思うんです。僕自身も、ダイアグラムを一つのきっかけにして、いろいろな人と対話を重ねることができました。製造・販売・選別・回収など、それぞれの立場で価値観や課題感がまったく異なることを実感して、正解はわからないけれど、少なくとも問題だけは把握できるようになったんです。

——普通に仕事に取り組んでいると、直接やりとりする相手のことしか認識できないものです。ダイアグラムで描かれた広大なチェーンの存在も把握しないまま循環社会を目指すことには、そもそも無理があるのかもしれません。

峯村:こうした全体像を把握せずに、解決策めいたものだけを提案するのは無責任ですよね。ステークホルダーとつながりたくても、そもそも誰が横にいるかさえ分からないのが今の状況。マーケティングにおいて顧客のペルソナを設定するように、産業構造を可視化したダイアグラムを共通認識として持つことで、ようやく議論が始められます。

サーキュラーエコノミーの取り組みは、1社や2社で達成できるものではありません。いかにステークホルダーを巻き込むかが大事で、そのためのツールとしてダイアグラムは機能している。人や領域の分断・サイロ化を防ぐために、こうしたダイアグラムのようなものを作り上げることが、デザイナーとしての重要な役割だと思います。

時間軸の異なる価値を両立する

——ダイアグラムは細部まで詳細に描かれていますが、どのように制作したのでしょうか?

峯村:ひたすら実直に、インタビューで話を聞くだけです。虫の目になってリサーチを重ねていくと、どんな領域のプレイヤーも自分とその周囲のことについて、それぞれの立場から話をしてくれます。徐々にスポットライトが当たる場所が増えて全体像が見えるようになり、それでもまだ暗い部分があったら、そこに話を聞きに行くことの繰り返しですね。

何も難しいことはなく、ただコツコツやるだけなのですが、そのスピード感は企業の活動と矛盾することもあるでしょう。なるべく時間やリソースをかけずに高い効果を生むことが、営利を求める企業の原理原則ですから。とはいえ、循環社会自体がスピードや効率を求める価値観とは相反する、匍匐前進のようにゆっくりと進むものですよね。

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聞き手の磯江亮祐/Bipass編集部

——早期に成果を求めたがる企業の中で、複雑さを受け止め、正解を保留したまま活動を続けることには難しさが伴います。経済成長と循環とが必ずしも相入れない中で、企業はどのように振る舞えばいいのでしょうか。

峯村:まず、トップが認識を変えれば企業の姿勢は変わります。社員レベルでは、短期的な成果と長期的なKPIを両立するスキルが重要です。多様な領域を横断できるプレイヤーになった上で、会社に対してもうまく数字に落とし込んでアピールする。メディアへの露出を広告価値に換算したり、長期的なブランディングとして位置付けたりといった、企業人としてのビジネススキルにも左右されるのではないでしょうか。

——短期的な経済的成果と、良い未来に向かうロングスパンの歩みを両立するスキルは、今後のリーダーやマネジメント層にも求められるかもしれません。その二軸を両立するためにも、全体像を俯瞰できるダイアグラムは様々な業界で役に立ちそうですね。

峯村:そうですね。実はこれまでアパレル産業で行ってきたリサーチやダイアグラムの制作を、他の産業やシステムでも応用したいと考えています。たとえば、地域のまちづくりにおけるステークホルダーや価値の循環を可視化すれば、移住の要因が明らかになるかもしれません。

ダイセルと縁の深い林業やバイオマスバリューチェーンにも興味があります。出口の需要がないから山に入る人が少ないのかと直感的には思いますが、本当はもっと複雑な理由が絡み合っているはず。まずは林業のいろいろなプレイヤーに話を聞いて、実態の把握から進めたいですね。「林業は大変」とか「未来がない」といった粗い認識ではなく、高い解像度で現象を理解した上で、多くのステークホルダーたちと議論を深めていきたいです。

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峯村:アパレルや林業はもちろん、どの産業でも複雑な要素が絡まっています。その難しさから目を背けて「課題は3つです」などと簡易化してしまえば、それ以外の問題がすべて無視されてしまうかもしれない。ものごとをシンプルにせず「わけがわからないものに向き合っている」という態度を持ち続けることが、循環に向き合う際には求められます。ときには、何が正しいかを倫理的に考える必要もあるでしょう。

——答えを出すことばかりに執着すると、現実が矮小化されてしまう。課題が指折り数えられる程度のはずがないし、産業構造を単純化することには功罪が伴うのですね。

アパレル産業の流れをスローにする選択肢

——今後のアパレル産業において、峯村さんはどのようなアクションを行なっていきたいですか?

峯村:アパレルにはとても複雑な静脈産業が紐づいています。現状では回収後の運搬・選別・再資源化のプロセスを経て、回収物の7割程が海外に送られています。回収のフロー自体は改善されていますが、そもそも衣類を静脈に向かわせないことの重要性も見えてきました。

生活者に回収という選択肢を訴求することにも価値はありますが、大量生産・大量回収社会に移行するのは、僕の思う目指すべき未来ではありません。回収に参加するのは、ある意味で物を早く手放す行為でもあって、それが正解とは限らない。そもそも正解があるかもわかりませんが、僕はアパレル産業の流れをスローにするようなアプローチから始めたい。そんな思いから、持続可能で循環するファッションのためのプロダクション「HUMATERIAL(ヒューマテリアル)」を立ち上げました。手持ちの服に向き合いながらケアやリペア等の場をつくり、服と人との関係性を再構築することを目指して活動していきます。

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持続可能で循環するファッションのためのプロダクション「HUMATERIAL(ヒューマテリアル)」をスタート。プロダクションのメンバーには、元オールユアーズ木村まさし氏、nowartt足立豊樹氏らが参画し、衣服の循環プロジェクトでの経験や視点を活かした活動に取り組む。デザイン、アート、カルチャーなど多様なバックグラウンドを持つメンバーが集い、さまざまな制作活動を行なっていく予定。

——循環というテーマに対して、回収だけではない選択肢を提示することで、世の中がどのように反応を示すかが楽しみです。

峯村:まずはリペアなど服を長く着ることに関心を持つプレイヤーと繋がることが考えられますが、そうではない人からも話を聞かなければいけません。なぜなら、同じ思想の人ばかりと組み合わさると、異なる考えを持つ人との分断が生まれてしまうからです。あまりに強い共感は視野を狭くし、そこにいない人への批判を生んでしまうことさえあり得ます。

つまりは、できるだけコミュニティを「つくらない」ようにすることが大事なんです。はっきりした境界がなく、グラデーションのように人が集う、一言では形容できないような塊を作らなければいけない。「好きな人たち」とか「ああいう界隈」で閉じない、中心のないプロジェクトのような存在にするために、例えばファストファッション業界の人とも対話しながら、多様なアクターを取り入れていきたいです。

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——とても大事な考えですね。時代が変わる瞬間には多くの反対意見が出て、その後収束していくものですが、今はまさにそのステージにある。いつまでも居心地がいい場所に留まっていたら、いつか仲間になる可能性のある人たちとも接続できなくなってしまう……。

峯村:自分たちと違う考えの人はたくさんいるけれど、その声を聞かずに社会なんて作れませんよね。コミュニケーションの過程で傷つくかもしれませんが、それも承知でいろんな人と話して一緒にやっていくしかない。それほどまでに、世の中は複雑なアクターが繋がりあっているんです。どのように進めても全体を捉えきることはできませんが、可能な限り「わからない」ことに向き合い続ける姿勢が大事なんです。

消費者と生産者の境界が溶け合う未来へ

——ダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで誰もが愛せる未来を描いています。峯村さんにとっての愛せる未来を教えてください。

峯村:アパレル産業を俯瞰してわかったのは、この複雑に絡み合ったシステムを変えるきっかけは、消費者側の変化にあるということです。近年、手入れされない竹林が問題になっていますが、昔は普通の人も竹を加工して日用品を作っていました。いわば立派なつくり手だったのに、大量生産が広まったことで、わざわざ自分で山に入らずとも店で買えば良いという状況が生まれ、普通の人は作ることを手放してしまった。

お金を払って誰かにお願いしていると、人はものをつくれなくなってしまいます。すこし手間はかかるけれど、何かをつくったり直したりする創造的なアクションを重ねていけば、消費するだけの存在から脱却し、生産者にちょっとずつ変わっていけるはず。そうやって、消費者と生産者の境界がぼやけていけば、僕にとっての愛せる未来に近づいていくと思います。

——消費者として良いものを安く買い続けているだけでは、体験的な価値は手に入れづらくなっていく。ダイセルは素材を開発してきた企業ですが、もし普通の方も素材を作れるようになったら面白い変化が起きそうです。

峯村:いろいろな人がつくることに介入できる場所があると良いですよね。そうした創造的な体験の先には自己変革があります。僕も美大の学費を払って、仕事もあるなか毎晩遅くまで苦行のように課題に取り組んでいましたが、自分が変わることに大きな価値を感じていました。何もかも便利になっていくことよりも、たとえ面倒くさくてもアクションを起こして、新しい自分に変わることに価値があると思うんです。

今までの産業では、早く買って、早く消費して、早く買い替えることが消費者に要請されていました。これからは、長くスローに使うためのサービスにフォーカスしながら、シンプルではない複雑な社会と向き合い続けていきたい。個人レベルでものをつくったり直したりすることは、そのための手段として機能するはずです。

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文:淺野 義弘/写真:福森 翔一

造形構想株式会社
HUMATERIAL ティザーサイト

峯村 昇吾

造形構想株式会社峯村 昇吾

造形構想株式会社峯村 昇吾

元FABRIC TOKYO。武蔵野美術大学大学院造形構想研究科造形構想専攻の在学中に、勢いあまって造形構想株式会社を設立。在学中にファッション産業の複雑なサプライチェーンを可視化したサーキュラーダイアグラムを手がける。犬のブラッシングが好き。武蔵野美術大学特任研究員。

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