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すべての必要と不要をつなげる、 捨てない社会のバリューチェーンすべての必要と不要をつなげる、 捨てない社会のバリューチェーンすべての必要と不要をつなげる、 捨てない社会のバリューチェーンすべての必要と不要をつなげる、 捨てない社会のバリューチェーンすべての必要と不要をつなげる、 捨てない社会のバリューチェーンすべての必要と不要をつなげる、 捨てない社会のバリューチェーン

川野 輝之

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すべての必要と不要をつなげる、
捨てない社会のバリューチェーン
ECOMMIT 代表取締役CEO川野 輝之

すべての必要と不要をつなげる、捨てない社会のバリューチェーン

update 2023.09.20

# 資源

# イノベーション

# ビジネス

# サーキュラーエコノミー

# サステナブル

# 環境

# リサイクル

SDGsという言葉を出すまでもなく、大量生産・大量消費が招く環境への負荷や資源の枯渇は私たちが向き合わねばならない大きな課題だ。多くの企業が環境を意識した取り組みを行ってきたが、それを事業の中心に据えることは容易ではない。あくまでメインとなる経済活動は他にあり、CSRや新規事業として取り組む事例の多さは、経済性と環境配慮を両立させることの難しさを示している。

ECOMMIT(エコミット)は、そんな産業の構造を本気で変えようとする企業だ。「地球にコミットする循環商社」として「すべての必要とすべての不要をつなげ 捨てない社会をかなえる」ことを目指している。私たちの経済発展と共に増え続けてきた「不要品」は、その多くが廃棄すべきゴミではない。適切に分類し、必要とする人や企業の元に届ければ、再び社会に価値をもたらすことができるのだ。製造・販売・消費を経た廃棄という直線的な経済活動から、不要品を再資源化し経済的な価値を生む、新しい循環への変化は既に始まっている。

環境と経済を両立させる秘訣は、エコミットの17年にも及ぶ活動で培った回収・選別のインフラと、合理化や効率化をもたらすデータの蓄積にある。耳触りの良い理想論だけでは終わらない、新しいエコシステムと共に不要品の新たなルートを生むエコミットの取り組みを伺った。

消費と製造をつなぐ新たなルート

─ Bipassは「資源の新しいルートを探るメディア」です。これまで廃棄されていた不要品に対し、まさに新たな道を示すエコミットの活動には前から興味を持っていました。まずはどのような会社か教えていただけるでしょうか。

川野輝之氏(以下、川野):私たちは「捨てない社会かなえる」をテーマに事業に取り組んでいます。これまで人々が不要品として手放してきたものを回収して、再資源化し、循環していく仕組みをつくりあげる。不要品の回収を入り口とした、新たなサーキュラーエコノミーの実現を目指しています。

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川野輝之氏/ECOMMIT 代表取締役CEO。高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。

川野:これまで社会の発展を支えてきた産業構造は「生産→販売→消費→廃棄」という直線的なものでした。販売や消費を経て、ものを廃棄することが前提にあったため、日本では「ものを捨てるインフラ」が圧倒的に整っています。簡単にものを捨てられる世の中では、消費者や販売者が捨てる以上のメリットを見い出せなければ、リユースやリサイクルにつなげることは難しい。日本では衣類の7割が再利用されず廃棄されているというデータは、その一つの証左になるでしょう。

製造側にとっても、リサイクルされた素材の利用には高いハードルがあります。再生原料は一度も利用されていないバージン材に比べて価格が高く、それが製品の価格にも反映されてしまいます。量の確保や安定調達も難しいため、「安く大量に作られたものが売れる」という現状に合わせたビジネスをせざるを得ない状況が続いていました。

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川野:しかし、消費と製造の間に新しいルートを生み出せば、この構造を抜本的に変えることができます。廃棄されているものを救い出し、しっかりと選別して付加価値をつけ、必要としている人や企業に提供する。こうして消費と製造の間をつなぐ「回収→選別→再流通」という道筋が成立すれば、ものを捨てることに勝るメリットが生まれます。エコミットはこのルートを開拓し、ただ不要品を回収するだけにとどまらない、ものづくりの新たなインフラになることを目指しています。

─ 廃棄が最終地点だった既存の産業構造から、回収・選別・再流通という新たなルートを設けることで、サーキュラーエコノミーを実現しようとしているのですね。

データを駆使すれば不要品は商材になる

ーエコミットはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

川野:私は高校を卒業してすぐ、日本の中古品を国外に輸出する企業に入りました。就職後18歳のとき海外の現場で目の当たりにしたのは、日本の不要品が人の暮らしを豊かにする光景でした。それまで水牛を引いていた農家さんが、中古の農業機械や建設機械を使いこなしたりするんです。日本で不要とされるものでも、場所やシチュエーションを変えれば活躍することを学びました。

そうしたポジティブな気づきの一方で、解決すべき課題も感じました。本来なら日本で適正に処理すべき電子ゴミや衣類などが、輸出された先で環境に悪影響を与えていたり、焼却によるCO2を発生させていたり……。行き先や用途が明確でないものを輸出することに伴う負の側面を見て、その原因を考えるようになりました。

不要品をすぐに廃棄したり、海外に輸出したりする理由はどこにあるのか。それはきっと「環境を追求すると儲からない」産業構造にあると思ったんです。テクノロジーの力によって、もののトレーサビリティを向上させ、利用者とのマッチングを最適化できれば、この産業構造をアップデートできるかもしれない。不要品として廃棄されてきたものを社会システムの中に戻していくためには、一企業として真っ向から取り組むことが必要だと思い、2007年にエコミットを創業しました。

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─ 不要品の回収に関わる企業は少なくありません。エコミットならではの強みや特徴はどこにあるのでしょうか。

川野:私たちの強みの一つは「選別」の正確さです不要とされているものも、しっかり選別して提供すれば価値がつくのです。エコミットでは衣類なら52種類に、全体では123種目の選別を行っていますが、このように材質や品目が明確になっていれば、オンラインのグローバルオークションに出品したり、企業に原料として販売したりできます。

さらに、選別した品がどのように売れてきたかという「データ」も、17年間の中で蓄積されてきました。環境負荷が最も低く、経済価値が最も高くなるようにマッチングできるので、不要品が価値ある商品になるんです。

現在、エコミットは年間で6000tほどの衣類を集めており、その再資源化率は98%に及ぶのですが、これは業界でも飛び抜けて高い割合です。回収した物品のほとんどが売れると考えれば、廃棄物には経済的にも高いポテンシャルがあると言えますよね。

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川野:蓄積したデータやノウハウを生かして、企業向けのサービスプラットフォームも提供しています。8年前からアップデートを続けている「Eco Value Pack」は、透明度の高い循環プロセスを実現するトレーサビリティシステムです。原料がどこから来てどこへ行くかを小売レベルで追跡したり、GPSと組み合わせてCO2の発生量を計算したり。そうした機能を使って、ユーザーは製造物や不要品の情報を管理できるんです。

─ こうした明細なデータの需要は今後も伸びていきそうです。長年のノウハウとデータを武器に、経済性の伴う事業に取り組んでいるんですね。

回収ステーションが再訪や購買を促す

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後藤友尋/Bipass編集長

─ 2023年4月から始まった「PASSTO(パスト)」は、 生活者がエコミットの活動を知るきっかけになりそうです。どのような取り組みか教えていただけますか?

川野:日本でフリマアプリへの出品などを含むリユースを経験したことがある人は、全人口の3割程度と言われています。かといって、残りの7割の人も捨てたくて捨てているわけではないでしょう。面倒くさいだとか、利益にならないだとか、捨てる以上のメリットがないことが原因にあると思うんです。PASSTOはそうした「捨てざるを得ない状況」を解消するために、不要品回収の入り口になるサービスとして開始しました。

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川野:具体的には、全国の公共施設や商業施設に「パストBOX」と呼ばれる回収ステーションを配置し、様々な不要品を回収できるようにしています。いつも買い物をするような場所にこうした拠点があれば、不要品を回収に出すことが当たり前にできますよね。今のところ郵便局やマンション、オフィスやショッピングモールなど、全国約1,300箇所の拠点から回収をしています。

─ これまでの生活のシーンの中に「回収の入り口」が置かれることで、リユースを経験したことのない人たちとの接点を生もうとしているのですね。

川野:PASSTOを設置する側にも経済的なメリットがあるんです。アパレル分野では特に、リサイクル品を扱うと新品が売れなくなると考えられがちですが、実はそうではありません。店頭で回収を行うと根強いファンが持ってきてくれるので、企業やブランドとの距離が縮まるんです。街の古着屋に持っていくよりも、日頃お世話になっている人とやり取りする方が気持ちよく話せるし、また来たいと思えますよね。

以前の実験では、回収に協力してくれた人に発行したクーポンが、なんと1ヶ月以内に70%ほど利用されました。回収というアクションをきっかけに、お客さんの再訪を促すことができたんです。また、回収品の1割はほぼ手入れのコストがかからないような状態でしたから、再販品として売り上げにも貢献しました。回収はコストがかかるだけではなく、売上にも貢献することを示せたわけです。PASSTOのような仕組みがあることで、環境への配慮と経済性がトレードオフではなく、両立可能なものになるんです。

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─ 環境を意識した取り組みが、経済とも両立し始めている。一見相反しそうな概念も、データと共に示せるのはエコミットならではの強みですね。

川野:積極的なデータの開示によって、協力企業の承認が進んでいくこともありました。いま、回収品のリセールや中古販売の市場は拡大しており、2026年には新品市場を越えるとさえ言われています。個人がフリマアプリに出すのも良いですが、今後は企業自ら回収して再販することが当たり前になるかもしれない。数量ばかりを求めてきた企業が、長く使えるものの提供に切り替えていく、そんな流れの一助になりたいと思っています。

天然資源の減量は経済の縮退を意味しない

─ 川野さんのお話を伺うまでは、大量生産・大量消費が前提でないと成り立たないビジネスモデルなのではないか?と感じていました。しかし、回収や再利用の過程自体にも、大きな可能性があるのですね。

川野:天然資源の使用量を減らしていく必要性は、誰もが認めるところです。しかし、その結果、経済活動も縮小していくという考え方は勘違いだと思っています。なぜなら、その分循環型のインフラやサービスのボリュームは大きくなっていくからです。天然資源の使用量が減ることは、市場の縮小を意味するわけではありません。

不要品自体を新たな資源と捉えることもできます。電子機器に使われている金属を差して「都市鉱山」と呼ばれることがありますが、タンスに眠っている衣類は「都市農園」のようなもの。素材として再利用する際にも、データで環境へのポジティブな影響を示せれば、それ自体が製品やブランドの価値にもなりますよね。

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磯江亮祐(Bipass編集部)

─ 環境を追求すると経済がスローダウンするという発想自体が、過去の呪縛ということですね。天然資源からものを作って売るという前提から脱した、新たなバリューチェーンを作ろうとする姿勢には勇気づけられます。

川野:ありがとうございます。とはいえ、まだまだ回収や再利用の規模は、社会全体と比べると小さいものです。本音を言えば、何かしらの意志を持って参加していただけるのが理想ですが、意識だけでは大きな変化を起こせないのもまた事実。参加のファーストステップは「ゴミを出すのと同じくらい簡単」「クーポンがもらえるからお得」といった身近さで良いと思うんです。

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川野:また、産業のバリューチェーンを変えようとするわけですから、もちろん一社だけでは実現できません。ものづくりの川上から川下まで、製造・販売・回収に関わる多くのパートナー企業さんに協力してもらいながら、大きなムーブメントを作ることが必要です。

「利便性と経済性」を追求して伸びてきた経済成長期には、もう戻れません。今は「環境と経済」を両立させるために、構造自体から作り直していくことにこそ価値がある。エコミットのデータやサービスを使うことで、本業も儲かるようにすることで、より多くの人や企業を巻き込んでいけると考えています。

人の営みを愛せる未来につなげていく

─ 事業を広げていく中で、課題に感じたことはあるでしょうか。

川野:PASSTOの例で言えば、実践する上での小さな問題が見つかり始めています。マンションのエントランスに置くのはリスクがあるんじゃないかとか、管理コストはどう捻出すればいいのか、とか。サービスローンチから半年が経って、いろいろな「やらない理由」が集まってきましたから、あとはひたすら解消していくだけですね。

正直なところ、最初はクーポンの付与も社内で賛否があったんです。結局消費活動につなげるのであれば、これまでの経済モデルと変わらないじゃないか、と。とはいえ、7割もの不要品が捨てられている現状に対して、減らすためのアプローチは全部やろうという意志で進めてきました。

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林あゆみ(株式会社 ダイセル 事業創出本部)

─ 川野さんが事業を始めた17年前から比べると、世の中の風潮も変わったと感じますか?

川野:そうですね。当時はサーキュラーエコノミーなんて言葉もありませんでしたし。10年前に同じようなことを言ったら、「え?」というような反応が返ってきたでしょう。周りからの反応は芳しくありませんでしたが、いずれは必ずこういう時代が来るだろうと思って事業を続けてきました。

今後は大きな枠組みで言うと、グローバル展開も視野に入れています。日本だけで資源を扱う必要はないので、不要品を海外に戻してバリューチェーン自体の適正化を図ることが大事かなと。また、国内では上勝町のゼロ・ウェイストモデルも知られていますが、欧州でのムーブメントも参考に、いずれは私たちも政策提言に関わっていこうと思っています。

─ 不要品の回収から始まる新たなサイクルが、個人や企業、そして日本や世界へと広がっていく姿が想像できました。最後に、ダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで誰もが愛せる未来を描いているのですが、川野さんにとっての「愛せる未来」を教えてください。

川野:僕らの本拠地は鹿児島にあって、これからも場所を変えるつもりはありません。とてつもなく素晴らしい自然環境の中にいると、この自然を100年ではなく500年、1000年先まで残していきたいと思えるんです。経済と環境が両立できたら、きっとそうなるはずだと信じながら、目の前にある感動的な景色を未来まで残していきたいです。

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ECOMMIT HP
https://www.ecommit.jp/

文:淺野 義弘
編集:松岡 真吾
写真:福森 翔一

川野 輝之

ECOMMIT 代表取締役CEO川野 輝之

ECOMMIT 代表取締役CEO川野 輝之

高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。

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