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森のあることが“うれしい”社会へ─ 木と人の関係性のリデザイン【後編】森のあることが“うれしい”社会へ─ 木と人の関係性のリデザイン【後編】森のあることが“うれしい”社会へ─ 木と人の関係性のリデザイン【後編】森のあることが“うれしい”社会へ─ 木と人の関係性のリデザイン【後編】森のあることが“うれしい”社会へ─ 木と人の関係性のリデザイン【後編】森のあることが“うれしい”社会へ─ 木と人の関係性のリデザイン【後編】

奥田 悠史

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森のあることが“うれしい”社会へ─
木と人の関係性のリデザイン【後編】
取締役/森林ディレクター奥田 悠史

森のあることが“うれしい”社会へ─木と人の関係性のリデザイン【後編】

update 2023.03.27

# サーキュラーエコノミー

# サステナブル

# 資源

# 森林

# 住宅

# 農業

# 木工

「森をつくる暮らしをつくる」という理念のもと、森の資源を使った暮らしの提案を通して森と人をつなぐ「株式会社やまとわ」。長野県伊那市をベースに、農林業やものづくり、森のプランニング、住宅、リノベーション、エネルギーなど、その事業内容は多岐にわたる。

 かつて、森は人にとって今よりももっと身近で、森にあるものを食べ、森の木で家を造り、森の木をエネルギーに変えていた。時代とともに暮らし方が変わり、人が森から離れていくにつれ、森の価値は下がり、森の担い手も少なくなるという悪循環が今も続いている。

世界は今、あらゆる視点で持続可能な社会を目指しているが、森ほど可能性に満ちた循環サイクルを持つ生態系があるだろうか。雨水を蓄え水を浄化し、二酸化炭素を固定し酸素を放出する森。そこにはさまざまな生物の命が育まれ、つながり合って森の環境が維持されている。

森の担い手が減り、循環サイクルが滞りはじめている日本の森を、生態系を守りながら健全に循環させていくために、再び森と人の暮らしを近づけることを考えたのが、やまとわの発端だ。その発想の源や理念に基づいたものづくり、目指す未来について、取締役で森林ディレクターの奥田悠史氏に伺った。

▶︎インタビュー前編はこちら

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左:聞き手の後藤友尋/株式会社ダイセル バイオマスイノベーションセンター企画・推進グループ クリエイティブユニットAC-CELL、右:奥田悠史氏/株式会社やまとわ 取締役・森林ディレクター

森に対する愛情や期待を取り戻す

後藤:前編ではやまとわの成り立ちや取り組みについて伺いました。地域の木を扱いながら森と付き合う面白さに共感しあえる仲間と集うことで、森との関係性を築いていくスパイラルができている印象でした。

奥田悠史氏(以下、奥田):ありがとうございます。一方で、生態系というのは連続性があるものなので、僕らが読み切れるのは果たして何手目までなんだろうか、といつも悩んでいます。例えば、森が荒れていくのにもそこには一つの循環があって、山主が森に関心を失い、木こりの仕事がなくなり担い手が減り、地域の木を扱う製材所がなくなり大工がいなくなる。そうなると今度はカンナなどをつくっていた道具屋や鍛冶屋がいなくなって…。つまり地域の木を使うというのは、それくらい複合的な成り立ちでやっと実現することなんです。

そのためには、現代では希薄になってしまった森に対しての愛情や期待といったものを取り戻さなければいけない。森のサイクルはすごく時間軸が長いので、目先の方法論だけではなく「楽しむ」とか「ワクワクする」みたいな、人間の根っこに訴えかけるような感情を生み出していくことが重要だと考えています。

後藤:確かにそうかもしれません。現状の生活スタイルをテクノロジーから切り離して無理やり昔ながらのものに戻そうというのではなく、自分の好奇心や興味に紐付けて森林資源の未来について自然発生的に考えられるようになると理想ですよね。少し話題が変わりますが、世界を見渡した時に日本の森林の価値はどのようなところにあると考えますか?

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奥田:日本は急峻な山間地形が多く、世界的に見ても森や木に囲まれて文化が育まれてきた国だと思います。宮大工のように、木を活かす高い技術力も昔からありました。木との付き合い方や知恵、ノウハウなどは、長年に渡り大事に磨かれ続けたものが日本にはあります。逆の視点でいうと、積み重ねてきた歴史があるからこそ、凝り固まっている価値観もあるのかなと思います。

後藤:伝統文化の発展の一方で、工業生産の文脈では経済効率によって外国の安い木が選択されているというジレンマもありますよね。本来は日本の各地域にも地産地消の流れはありましたが、いつからか衰退してしまった。

奥田:日本の森は、例えばフィンランドなど平坦な地形の国と比べると機械化しにくいですし、生産性を上げるのは難しいかもしれません。ただ、日本の森の環境が必ずしもハンデなのかというとそうではなく、むしろ、まだあまりトライアンドエラーが行われていないのではないかと。森が放置されてから現在に至るまで、さまざまなテクノロジーが発展してきていますが、森は変わらず置いてけぼりになっている。時代に即したちょうどいい付き合い方はまだ十分に模索されていない気がします。

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「かんなくず」で花弁を再現してつくられたフラワーアレンジ。かんなの技術も日本ならではのものだ。

木とは人類みんなが扱える持続可能な素材

後藤:日本と海外の国、例えばどちらの森にも同じ木が生えていたとしたら、それぞれの木に特性の違いはあるのでしょうか?

奥田:あると思います。日本の木々は急峻な斜面で山に守られながら育つことで風の煽りを受けにくく、品質のいいスギやヒノキを生産することができると言われています。また日本と違い世界の森は天然林であることが多いので、日本ほど枝打ち(樹木の枝を幹から切り落とす作業のこと。林業における保育作業の一つ)を探究した国は他にないんじゃないでしょうか。

また、日本には原生林と呼ばれる人の手が入ってない天然の森がまだ残っているのも魅力の一つで、生産林とは違ったかたちでの活用ができるのではないかと思っています。生産性や自給率だけを追求して需給バランスを成り立たせるのは困難なので、森に人が来てそこに経済が生まれるようなアプローチを考える方が、有意義だし面白いだろうなと。

後藤:森と人を近づけるやり方は、ものづくりだけがアウトプットではないということですね。私たちダイセルも森林資源を活用した事業やプロジェクトは様々な構想を立てていますが、工業のサイクルと森林のサイクルのバランスを考えた上で設計する作業はなかなか簡単なことではないと感じています。

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奥田:大きな企業だと、バランスのとれる生産と売上を、日本の自然のスケールの中で行うことは難しそうですよね。企業の中に新しい小さな会社を立ち上げるくらいの規模感でやると、ちょうどよく周るのかもしれません。

とはいえ僕らも、廃材を活用して新しいプロダクトをつくろうとしても、突き詰めると結局新しい木を伐ってそれを一本丸ごと使った方がいいという結論が出てしまったり、ものづくりについては常にジレンマがありますね。

後藤:難しいですね。一方で、奥田さんは木の持つ価値とはそもそも何だと思いますか?

奥田:木は短周期で再生産できる持続可能な資源であることが一番の価値だと思いますが、素材として見たときの価値は「誰にでも扱える」ことでしょうか。鉄などの素材と比べるとDIYもできますし、リペアも簡単。人類みんなが扱える素材かなと思います。あと優れているのは、燃やせるという点です。最後にゴミになるのではなく、燃やして炭にしたりエネルギーにしたりできるというのは、木質資源の秀でた特徴だなと思います。

「森があるから、うれしい」を増やすために

後藤:奥田さんのこの先のビジョンについてもお聞きしたいのですが、今後の取り組みの中で協業してみたいコラボレーターなどはいますか?

奥田:新しいサステナブルな素材などを扱う化学メーカーと、木の新しい付加価値を考えるようなプロダクトや素材づくりの共創ができると面白そうです。一方で、今ある僕らの強みを生かすことを考えると、企業と森の間に入ってトランスレーションするような役割を担いたいと考えています。森は循環のサイクルも長いし、一つの森にも複数の山林所有者がいたりして、活用の話を一企業が進めるのがなかなか難しい。ビジネスの視点だけでは突破できないハードルもあると思っています。現在も、ある企業と一緒にレジリエンス向上や災害防止の観点で森をつくる実験をしており、企業と森とのストーリーを生み出して双方の価値を紐づけるようなサポートを今後はしていきたいですね。

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後藤:私たちダイセルも里山を再生するということと、里山を軸に産業をつくることを並行してアクションしていきたいと思っています。従来のように木からセルロースを取り出し素材として製品をつくるばかりではなく、「体験」を人々に提供できるようにしたいなと。セルロースって実はすごく身近なのに、どこに使われているのかは意外とみなさん知らないし、それが木に由来するものだとも知られていない。そういう未知な部分を具現化してキャッチーな体験を提供し、その驚き自体を一つ価値として伝えられる取り組みができれば面白いと思っています。

奥田:いいですね。テクノロジーやエンターテインメントのような領域とバイオマスが合流するのはとてもワクワクします。

後藤:ありがとうございます。最後に、私たちダイセルは持続可能で豊かな未来に向けて「愛せる未来、創造中。」というタグラインを掲げているのですが、奥田さんが考える「愛せる未来」はどんなものでしょうか?

奥田:これはもうシンプルに、「森があるからうれしい未来」です。今は山林地域に暮らす人にとっても山主にとっても、森があってよかったと実感できる瞬間はほとんどないかもしれません。僕らやまとわは、活動を通して森と暮らしの関係性をリデザインすることで「森があってよかったね」と思える人々を増やしていきたい。森が身近にあるからこそ、山菜を採りにいったり、山登りしたり、マルシェを開いたり、勉強会をしたり…。僕らも、森があるからこそ、こうやって仕事ができています。「森があるから〇〇できる」という選択肢を増やしていきたいですね。

後藤:奥田さんの仕事はまさにその文脈をつくる仕事だなと感じました。私たちダイセルも、「里山での化学実験」みたいなイベントがやまとわさんとできると、より森に近い企業として認知していただけたりしそうだなと想像しました。今後とも、森を使った面白い取り組みをぜひご一緒させてください。

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▶︎インタビュー前編はこちら

文:野村 智子/編集:松岡 真吾

奥田 悠史

取締役/森林ディレクター奥田 悠史

取締役/森林ディレクター奥田 悠史

1988年三重県生まれ。信州大学農学部森林科学科で年輪を研究。大学時代、バックパッカーでの世界一周旅行に出かける。旅を通じて世界中の悪意と優しさに触れた。フィンランドでカメラを盗まれ、スペインではニセ警官にカードを盗まれる。悔しすぎてバルセルナの宿でまくらを濡らした。そのときに聞いた「谷川俊太郎」の詩「生きる」が心に刺さりすぎて、旅を続けた。世界中で、いろんな人が“生きる”姿に触れるたびに、その姿を伝えることに興味を持つ。大学卒業後、編集者・ライター、デザイナー、カメラマンを経てやまとわ立ち上げに参画。やまとわでは、ディレクションやクリエイティブを担当。

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