INTERVIEW
森林と人で作る新たなエコシステム【後編】森林と人で作る新たなエコシステム【後編】森林と人で作る新たなエコシステム【後編】森林と人で作る新たなエコシステム【後編】森林と人で作る新たなエコシステム【後編】森林と人で作る新たなエコシステム【後編】
グループ対談
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SUNDREDパートナー 日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部:吉井 拓史
SUNDREDパートナー 出光興産株式会社 経営企画部サステナビリティ戦略室所属:山口 有里
森林と人で作る新たなエコシステム【後編】
update 2023.02.14
# サーキュラーエコノミー
# サステナブル
# 環境
# 資源
# インタビュー
日本は国土の約7割が森林という世界でも有数の森林大国で、大自然が持つ豊富な資源を持っている。この資源を今以上に活かすことができれば、未来の経済成長に貢献することは間違いない。
そのキープレーヤーが、「100個の新産業の共創」を目指す新産業のエコシステムビルダーSUNDREDだ。フォレストリバイタライズ産業では「森に人が関わるほどに、生態系が回復し、人々の心も暮らしも豊かになる、価値循環の仕組みをつくる。」をビジョンに持ち、点在する森林関連プレーヤーをデジタルツールなどを用いて繋ぐ。
その目的は、人々の叡知とワクワクを集めながら発展するプラットフォームを構築すること。SUNDRED代表を務める留目真伸氏、プロジェクトの中心メンバーの吉井拓史氏と山口有里氏に、Bipass編集長の後藤がお話を伺った。
余計なことをする人がいないと、社会は成り立たない
ー森林に関わる産業、観光庁、大学、一般の消費者などの立場では、どのような行動や役割があると思われますか?
留目真伸氏(以下、留目):20世紀型・大量生産型の価値創造においては企業活動でもそれぞれの領域において効率を高めていくことが最優先とされてきましたが、今は、多様な社会の単位の課題を解決し、個々の人々や社会全体の幸福を実現することがあらゆる産業の目的になってきています。研究分野も同様で、従来は細分化された領域の中で探究を行っていけばよかったわけですが、今はどのように社会実装を進めてインパクトを生み出すのか、といったところまで考えていくことが求められています。そのためには対話をしながらそれぞれの社会の単位の課題を明確にし、自分が持っている知識やアセットをどのように社会の中で、その他のアセットと繋げてソリューションの全体像を共創していくのか、構想していくことが重要ですね。
SUNDRED代表取締役 留目真伸氏
ー実際に社会のために活動するときには、企業の技術や大学内の知識だけでは必ずしも役に立たないことがあります。他の領域との親和性も考えながら、活動することが重要ですね。
吉井拓史氏(以下、吉井):特に大学や企業では、組織の構造上、その中で評価が行われるようになります。大学の先生が論文を出して評価されるのは、一定の業界では成果になりますが、その一つの道筋の中での評価だけでは、横につながった可能性や、他の分野からの発見を反映した評価にはならないことが多いですよね。
留目:自治体や企業では、決められたことではないことをすると「無駄遣い」と言われることがあります。しかし、実際には「余計なこと」をする人がいないと、社会は成り立たないのです。現在、効率化された社会では、暗黙的に「効率優先」が植え付けられており、「余計な質問をしない」「対話をするな」とされています。現在はそうではなく、社会の単位ごとに多様な幸せを求めるべき時代です。私たちはその社会の単位が何を求め、何を課題と感じ、何を期待しているのかを見定め、解決していきたいと思っています。
SUNDREDパートナー 日揮ホールディングス株式会社/サステナビリティ協創部 吉井拓史氏
新しい秩序のために対話をする
ーそうした活動は、社会の新しい秩序を作るようなものだと思います。今までは、それぞれの組織ごとに効率が重視されていましたが、今はそれを少し壊すようなものを作る必要があります。そのためには、一つの志を持って集まることが本質ですね。
山口有里氏(以下、山口):今までなかなか連携できなかったものを、今後はあえてつないでいこうとするためには、既存のフレームではダメで、新しい未来を作りたいという共通のビジョンが必要です。それを話すための場が欠けていたのが、課題の本質であると考えています。そのためにこのような「新産業共創」のアプローチを取っています。
留目:「フォレストリバイタライズ産業」という名で、対話と共創の場を作ってるような感じですよね。
山口:そういう意味では、今まで別々に動いていたプレイヤーが、ある目的を共有することで、どんどん結びついていくようなこともあると思います。例えば、森林の保全や再生についても、大学の研究に市民が参加したり、国や自治体の政策に企業が資金を提供したりといったように、様々な連携が生まれていくことで、その目的を達成することができるかもしれません。
SUNDREDパートナー 出光興産株式会社 経営企画部サステナビリティ戦略室所属 山口有里氏
ー「Bipass」の運営母体であるダイセルでも、メディア運用は「会社」の存在意義や存在価値を改めて見直すことにあります。まさに私たちも皆様と同じようなことを考えていると感じました。一緒に森を活用してイベントなどができたらいいですね。
留目:会議室でやるようなイベントではなく、現場に人が集まるようなイベントをやりたいですね。現代社会では対話が足りないと感じます。本当は力を持っているのに、対話することをやめるように言われ続けて、その能力を失ってしまっているわけですね。スポーツや食事の趣味については話せますが、真面目な話になるとできなくなってしまうと。
ーダイセルは木の成分であるセルロースから酢酸セルロースを作っていて、これは液晶のフィルムなどにも使われています。見た目は完全にプラスチックのように見えますが、天然物からできていることをほとんどの方は知らないんですよね。実は森林資源をこんなものにも応用しているんだよ、みたいな話もできたらいいですね。
留目:そうですね。サーキュラーエコノミーを作るためには、みんなで参加して、一緒に考えて行動することが必要です。対話を通じてビジョンを共有し、既存のフレームや慣習を打ち破り、新しいものを創造することが重要です。そうすることで、より豊かで持続可能な未来を実現することができますよね。
山口:知的好奇心を刺激することで、人の心の豊かさも増すことができます。実証実験では、大人でも子どものように楽しめることを確認しました。新しいことを学ぶことで、森での楽しみ方も増し、森との距離も縮まり、森と自分の新しい関係を再認識することができます。また、森と教育のコラボレーションも有望です。修学旅行で森に入るなど、社会科見学の一つのコンテンツにもなりうるでしょう。森と人をつなぐ、文化的課題を乗り越えるためのソリューションとしても有効だと思います。
留目:あらゆる産業が、ウェルビーイングやリジェネレーションを目的にしなければならなくなっており、多くの企業がパーパスでそれを宣言しています。しかし実際のオペレーションではそのようにはなっておらず、それを単独で実現することはできません。そのためには多くの人々をつなげて取り組む必要があります。このような活動は、企業のトップだけでなく、すべての人が共同で作り上げるものです。森で行われる活動には必然性があり、そこで得られる素材や、生態系を考慮することも必要です。
後藤友尋/株式会社ダイセル バイオマスイノベーションセンター企画・推進グループ クリエイティブユニットAC-CELL
新時代のアントレプレナーのあり方
ー 私たちの会社は「愛せる未来、創造中。」というタグラインを持っていて、循環型社会など、みんなが愛せる未来を目指すことを呼びかけています。皆さんにとっての「愛せる未来」はどのようなものでしょうか?
山口:「人と自然が共に繁栄する未来」ですね。自然はどんな環境変化があっても繁栄していく力を持っていますが、その過程で人類が邪魔者として排除されるようでは悲しい。人間は、自然の再生の介助者にもなれると思うので、人間も自然の一部として、生態系における役割を果たしつつ、自然の恵みを享受しながらしあわせに生きていけるような、人と自然が共存して繁栄する未来が、私が愛せる未来です。
吉井:私は、自由に個々が存在し、それぞれに異なる性質があるところが良いと思える未来がいいですね。森を見ても、生き物それぞれに個性があり、それぞれが役割を果たし、そして他の生き物をサポートしながら成長しています。日本の社会もそのようになると良いですね。単一で平均的な個人を育てる日本の教育が長く続いていましたが、個々がそれぞれの特徴を重視し、自分のやりたいことをやることで、大きな森のような社会ができるのではないでしょうか。そのような未来が待っていると思います。
留目:やっぱり対話がベースにあって、知識を想像し続けて、より循環するような社会だと思いますよね。人間社会が悪いことをしようと思ってこのような形になったわけではありませんが、良くないものを直すこともサイエンスだと思います。今後は人間同士だけでなく、生態系や地球との対話も行われるでしょう。それによって新しい知識が生まれます。基本的には、より良い社会を作り、私たちを進化させるために、願望や欲求が人類を導いていると思います。それを否定することなく、皆さんが自分たちの思いを持って活動していることが、非常に良いことだと思います。
ー 私が思う「愛せる未来」は、みなさんの活動自体が表していると思います。自分の枠から出て活動することが本来あるべきできで、そのようなアクションが許容し合える世界だと思っています。目指すべき場所に行くためには、より広く、必要以上のことをやることも必要だと思います。それでも楽しく、好奇心を持って、さらに何かの制約を受けずに自由に活動できることが良い未来だと思っています。
留目:社会起点で越境しながら価値創造に取り組む個人を指す「インタープレナー」という言葉があります。起業家のアントレプレナーもその一種ですが、起業家でなくても、産業界の人や自治体の方、医者や先生など多くの人が、自分たちの活動で社会をよくすることができるはずです。アントレプレナーだけが、世の中をよくする人だと思われているように感じることもありますが、実際はそうではありません。
ー 私たちも「バイオマスイノベーションセンター」という組織で、人と自然の歩調を揃えることを目指しています。今までの企業活動の延長でやっていては絶対に揃わないと考えられますので、インタープレナー的な動きが必要です。それを実践することで、歩調が揃うような結果が得られるかもしれないですね。
山口:起業すると言った瞬間に、どうやって利益を出すか、どうやってスケールアップするかが問題になります。しかし、事業はあくまでも手段です。森林をとりまく課題のように複雑な課題に対しては、ビジョンの共有や、そこに至る道筋づくりなど、より大きなゴールに向かって、みんなで価値を積み上げられるような環境を創り出すことが重要だと考えています。そのための試行錯誤ができる場として、個の利害を超えて社会目的のもとにインタープレナーが集う「新産業共創」のフィールドは、重要な役割を担いうると信じています。
吉井:私たちはそういう場を目指して旗を掲げてやってきましたが、嬉しいことに多くの人がイベントに集まってくれました。「こうやったら面白そうだ」「こうすればどうだろう」と話し合って新しいアイデアを生み出しています。そこから思いもよらないような結果が生まれることもありますね。
留目:多様な人々が自分たちの言葉で課題や期待を語り、目的・アジェンダを共創していくことがスタートで、それによって、作りたい未来の解像度を高めていくことができます。そこからエコシステムの設計を描くというプロセスを通じて、事業としての成長領域や新規事業、スタートアップの機会などが見えてきます。日本ではアメリカから持ってきたリーンスタートアップのプロセスが文脈を無視して強調されることが多いですが、それだけでは新しい産業や事業を生み出していくことはできないと考えています。世の中が求めているのは社会の単位ごとに課題解決ができるようなweb3型の仕組みです。インタープレナー達が社会の中で覚醒し、対話を深めていくことで、日本からグローバルに発展する新しいイノベーションのモデルが発展していく可能性はあると思います。
文/編集:荒井亮
写真:福森 翔一
SUNDRED代表取締役:留目 真伸
SUNDRED代表取締役:留目 真伸
早稲田大学政治経済学部卒業。総合商社、戦略コンサルティング、外資系 IT、日系製造業等において要職を歴任。レノボ・ジャパン株式会社、NEC パーソナルコンピュータ株式会社 元代表取締役社長。株式会社資生堂 元チーフストラテジーオフィサー。大企業のマネジメント経験、数々の新規事業の立ち上げ、スタートアップの経営を通じ、個社を超えて社会起点の目的を実現するソリューションの全体像を共創する仕組みが必要であると強く認識し、2019年7月よりSUNDREDにて「新産業共創スタジオ」を始動。
SUNDREDパートナー 日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部:吉井 拓史
SUNDREDパートナー 日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部:吉井 拓史
大学卒業後、日揮株式会社(現日揮グローバル株式会社)に入社。中東、東南アジア、オセアニア、北米のなど海外のプラント建設プロジェクトに従事。その後、森林をテーマに新規事業開発に携わり、社外では、経産省「始動」プログラム7期生シリコンバレー選抜、CHNAGE 2期 by ONE JAPAN、Sustainable Forest Action 3期などアクセラプログラムに参加。2022年5月よりSUNDREDにて「フォレストリバイタライズ産業」を始動。
SUNDREDパートナー 出光興産株式会社 経営企画部サステナビリティ戦略室所属:山口 有里
SUNDREDパートナー 出光興産株式会社 経営企画部サステナビリティ戦略室所属:山口 有里
「人と自然が共に繁栄するリジェネラティブな未来を創る」をライフテーマに活動するインタープレナー(越境人材)。学生時代より環境問題に関心を持ち、エネルギー業界からの社会変革を志す。個人活動として、ラーニングコミュニティ「リジェネラティブ・リーダーズ・カレッジ」を主宰。その他、Sustainable Innovation Lab フェローなどの肩書で、複数のコミュニティやプロジェクトを跨いで活動中。
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