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木材×デジタルテクノロジーで 「生きる」と「つくる」が つながる未来へ【後編】木材×デジタルテクノロジーで 「生きる」と「つくる」が つながる未来へ【後編】木材×デジタルテクノロジーで 「生きる」と「つくる」が つながる未来へ【後編】木材×デジタルテクノロジーで 「生きる」と「つくる」が つながる未来へ【後編】木材×デジタルテクノロジーで 「生きる」と「つくる」が つながる未来へ【後編】木材×デジタルテクノロジーで 「生きる」と「つくる」が つながる未来へ【後編】

山川 知則

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木材×デジタルテクノロジーで
「生きる」と「つくる」が
つながる未来へ【後編】
VUILD株式会社山川 知則

木材×デジタルテクノロジーで「生きる」と「つくる」がつながる未来へ【後編】

update 2023.04.11

# 資源

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日本は国土の約7割が森林に覆われているが、木材の自給率は2021年時点で41.1%にとどまっている(林野庁調べ)。国産材の魅力を引き出しながら活用するためには、人口増や大量生産・大量消費を前提とした旧来の価値観を抜け出し、森に携わり山を守る林業家や、自らのアイデアと想いで家具や建物、ひいては場所さえ生み出していく「つくりて」達の存在が欠かせない。

VUILDは木材資源にデジタルテクノロジーを掛け合わせることで、すべての人を設計者に変え、「『生きる』と『つくる』がつながる社会へ」の変革を起こそうとする組織だ。自らも第一線で活躍する設計者集団として、デジタルデータやCNCルーターを巧みに用いた作品を世に送り出しながら、木材でものをつくるためのインフラを整え、日本各地で森林との一歩進んだ関係を育み続けている。

Bipassを運営するダイセルもまた、木材から素材製品を生み出すという意味において、森林とは切っても切れない関係にある。素材加工から利用後の循環まで含んだバイオマスバリューチェーン構想においても、さまざまな局面で利用法を編み出す「つくりて」の存在は不可欠だ。VUILD PlaceLabディレクターの山川知則氏とともに、木材資源との付き合い方や新たな行き先について語り合った。

▶︎インタビュー前編はこちら

木材を溶かし、新たな素材として活用できるなら?

後藤友尋(以下、後藤):前編ではVUILDのこれまでの取り組みについて伺いました。ここからは森林資源や国産材の活用という観点をもとに、開発中の技術や構想を交えた未来についてお話しできればと思います。

山川知則氏(以下、山川):宜しくお願いします。

後藤:ダイセルは木材に含まれるセルロースから酢酸セルロースという素材を作っています。液晶のフィルムなどに使われており、高い透明性があって重宝されているのですが、残念ながらあまり知られていません。森林の多面的な価値の一部を私たちが担っていることも、もっと伝えていきたいと考えているんです。

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後藤友尋/Bipass編集長

後藤:いまも京都大学や金沢大学と共同で、木を溶かしてリサイクルする技術を開発している最中です。利用価値のない木材を炭にしたり燃やしたりするのではなく、まずは有機酸を使って50℃程度・常圧で溶かす。超穏和に溶けた木材は、薄いフィルムにしたり、型にプレスして別の構造体を作ったりと、さまざまな応用法があります。

山川:元は同じ木という素材なのに、いろいろな形状として使えるのは面白いですね。建物をつくるときに、メインの建材は木材なんだけど、屋根や塗料など他の部分でも木材由来の成分が使われているような姿を想像しました。機能面はどうですか?​​

後藤:まだしっかりとは検証できていない状態です。やはり実際に使う際には、防水性などの機能も重要になりますよね。

山川:そうですね。モルタルの代わりに木材由来の素材を流し込み、それが硬化したら構造が成立するくらいの性能があると、応用の幅も広がりそうです。

後藤:なるほど。すべてを溶かした木材で覆うのではなく、補修パテのようにスポットで使うこともできそうですね。

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山川知則氏/VUILD株式会社

里山バイオマスラボ構想と、自律・分散・協調の歩み方

後藤:木材のリサイクル技術を発想の種として、里山バイオマスラボという未来像を描いています。木を余すところなくカスケード利用するような体験型のラボを、日本全国の里山地域で展開できないかな、と。化学業界で石油を余すところなく使い切っているように、木材もいろいろな形で使っていくための拠点をイメージしています。

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里山バイオマスラボのイメージ図。

後藤:この場所では規格に合わない木材や廃棄材、加工の際に生じるおがくずや端材などもマテリアルとして使える想定です。VUILDでは全国各地の林業家さんたちと連携しながら、ShopBotというCNCルーターなどを用いて地域の木材を加工していますが、加工後の廃材の扱いなどで工夫していることはありますか?

山川:板材から切り抜くパーツの配置を工夫することで、できるだけ端材を少なくすることは可能です。とはいえ、CNCルーターで切削する以上おがくずは発生しますし、切り抜いた破片は基本的には廃棄されています。加工後の板をインテリアとして使ったり、空間づくりに活用したりすることもありますが、やはりどこかで限界があるとは思います。CLTなどの合板には化学成分も含まれるので、そのままでは自然に還せませんし、その辺りも含めて、廃材の行き先はいろいろ考えているところです。

後藤:木は細かければ細かいほどエネルギーをかけずに溶かせるので、おがくずはリサイクルに向いています。設計の工程上、どうしても生まれてしまう端材をリサイクル活用にまわしてもらうような、いい関係が築けたら嬉しいです。

山川:木から再生した素材ができたら、ぜひ提供してください。僕たちとしてもいろいろな素材がある方が面白いですし、一緒に何かできるといいですね。

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後藤:里山バイオマスラボのような場所が各地域で生まれたら、それぞれの場所で、資源を余すことなく使えるようになるはずです。ビジョンが一致していれば、場所は分散していても同じ方向を向いて進めると思っています。

山川:VUILDが掲げているバリューとして、自律・分散・協調というものがあります。代表の秋吉は鎌倉に住んでいるし、COOの井上は岡山の西粟倉村にいて、まさに分散的。それだけだと価値が出せませんが、みんなが「『生きる』と『つくる』がつながる社会へ」というビジョンや、「すべての人を『設計者』にする。」というミッションに共感しているからこそ、それぞれ自律して働くことができます。採用でもビジョンやミッションへの共感の度合いはしっかり見ているし、逆に能力やポジションだけで選んでもうまくいかないみたいです。 

後藤:一緒に同じゴールを目指せるかどうかは、肌感覚で決まるところもありますよね。

山川:本当にそう思います。スキルの組み合わせで考えるよりも、メンバーがブリコラージュ的に集まったときのグルーブ感がすごく大事で。それは社内でもそうだし、プロジェクトでも同じ。相手とノリが合うかどうかは、一緒にものをつくってみるとわかるんです。やすりがけでもなんでもいいのですが、「なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ」という空気感の人とは受発注の関係に落ち着くだろうし、逆にすごく盛り上がってグルーブ感が生まれる時もある。つくることを通じて、フラットな視点が持てるんです。

つくるだけでなく、つくり続けられる未来へ

 後藤:ダイセルは「愛せる未来、創造中。」というタグラインで、循環型社会など、誰もが愛せる未来を目指すことを呼びかけています。山川さんやVUILDにとっての「愛せる未来」はどのようなものでしょうか?

山川:いま日本国内の森林資源は、一年の成長量と使用量がだいたい均衡しているそうです。ということは極論、適切に管理さえすれば、すごくサステイナブルに使用し続けることができるはず。僕たちはそのためのエコシステムや、さらにいきいきと暮らせるための仕組みを提案しているつもりです。

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写真左:磯江亮祐/Bipass編集部

山川:いまのVUILDは創業して5年が経ち、ハードとソフトが少しずつ揃ってきて、サスティナブルな材料もあって、ようやく準備が整った状態です。「つくる」ことのハードルがテクノロジーによって超えられて、個人や小さなグループでも創造性を爆発させられるし、しかもそれが地球の負担にならない。そんな状況が広がっていったらめちゃくちゃ面白いと思いますね。

後藤:一方で、日本の林業は補助金頼りだというお話も伺いました。このあたりの課題はどのように考えていますか?

山川:VUILDだけですべてが解決できるとは考えていません。資本主義の中だけで解決しようとするのは、そもそも無理ゲーというか、かなりハードなことだと思っていて。森林の多面的な価値を貨幣評価すると70兆円にもなると言われているのに、林野庁の予算は年間3,000億円くらいで。 

空気をよくしたり災害を防いだり、森林には知らないうちに享受している価値があるのだから、それに対する感覚を変えていくことが必要だと思います。森林の課題は、一つの会社で取り組むにはあまりにも規模が大きすぎる。僕達だけじゃなく、国を挙げて大切にしていこうという機運を高めていくことが大事なのだと思います。

後藤:大きな流れをつくるためにも、個人の感覚から変えていくことが必要ですよね。VUILDのこれまでの取り組みによって、森林の姿や価値を知り、「生きる」と「つくる」をつなげる人が増えてきていると感じます。

山川:建築界隈で特に感じることですが、批判やレビューにさらされると、途中でつくる気持ちがめげてしまうことがあって。誰だって最初は褒めてほしくて始めたわけではないのに、周囲からの評価に左右されすぎると、つくるのをやめてしまうかもしれないですよね。

だから、僕が目指したい「愛せる未来」は、「つくるし、つくり続けられる未来」。国産材を都市部で使う僕の仕事や、ダイセルさんのサステイナブルな木材リサイクル技術だって、今は絶対面白いと思って進めていますよね。でもきっと、どこかで「それ儲かるの?」だとか「実際どうなの?」みたいな声に負けて、今の価値観で無難とされることに戻ってしまうかもしれない。そうじゃなくて、しっかり辞めずに続けていく。いかに自分達の取り組みを面白がって、どう続けていけるかがポイントになるはずです。

後藤:私たちも同じ感覚です。バイオマスバリューチェーン構想を実現するためには、産業構造として持続することが必要で。私たちだけではなく、そこに参加する人たちが面白がって取り組めるような状況をつくれれば、同じ志を持つ仲間も増えて、愛せる未来を迎えにいけるのかなと思いました。

山川:いい締めの言葉ですね。僕が言ったことにならないですか?(笑)

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▶︎インタビュー前編はこちら

Podcast「ちょうどいい材木ラジオ」

山川 知則

VUILD株式会社山川 知則

VUILD株式会社山川 知則

1981年生まれ。大学卒業後、オフィス関連商社の文祥堂に入社。同社の100周年をきっかけに間伐材を活用した家具シリーズ「KINOWA」をプロデュースし、杉や檜など国産木材を多用した空間の作成に携わる。2020年にヒトカラメディアに参画し、コワーキングスペースのプロデュースやワーケーションの企画などを手がける。2021年にVUILDに参画。現在はVUILD Place Labでプロジェクトの企画、マネジメントに携わる。

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