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アグロフォレストリーとは?簡単に解説
気候変動をはじめとする環境問題に、農業従事者の事業継続、そして食の安全に至る複数の問題解決が期待されるアグロフォレストリー(Agroforestry)という概念が注目されています。アグロフォレストリーとは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語です。「アグロフォレストリー」という言葉自体は1970年代に生まれたものですが、古くから北米の先住民族や南米のアマゾン川沿いに住む人々などが実践していた農業形態です。「アグロフォレストリー」という概念の拡がりとともに、その持続可能な生産方法が世界中で取り入れられています。 今回は、環境にも人にもやさしいサステナブルな取り組みとして改めて注目されているアグロフォレストリーのメリットとデメリット、そして各国での展開などを解説していきます。
アグロフォレストリーとは?
生物多様性を生かした資源循環型の耕作畜林複合経営のことを指します。植栽木間の空き地に野菜などを栽培し、農業収益と林業収益を可能にします。従来のように森林を伐採して農地や牧場をつくらず、樹木を植え、その森を管理しながら、その土地で多種多様な農作物を栽培したり、家畜を飼ったりするのが特徴です。
高さのある木でアサイーやマンゴーを育て、その下の農地でコショウやバナナ、カカオなどを育てたり、家畜を飼うのです。従来型の森林伐採で農地や牧場を確保し、土地が広範囲にわたり荒廃してしまった土地を回復させるため、熱帯地方を中心にアグロフォレストリーは盛んに行われておりましたが、気候変動の主因といわれる二酸化炭素(CO₂)を森林が吸収するため、温暖化対策も期待され世界各国では現在、6億ヘクタール以上で普及しています。
そんな中、アグロフォレストリーに熱心な国の一つがアイルランドです。呼気からメタン排出が確認されている牛を生産し、その生産量の90%を国外に輸出しているアイルランド政府は、毎年7%ずつ温室効果ガス総排出量を減らし、2030年までに(20年比)51%を削減、50年までに排出量ゼロにするという目標を掲げています。その中で、農業を食料生産の手段だけでなく、温室効果ガス削減の公益産業と捉えた国家事業に取り組んでいます。
その事業の中で、全農家に野生生物カレンダーの作成を依頼し、政府生物データ管理部門に提出させ、管理することを行っています。例えばカッコウ鳥の初鳴きやカエルの出現、スピノサスモモ(スモモ属の低木)の開花など、地域環境の詳細などのデータから、季節変化に伴う動植物の動態変化と気候変動への影響を究明し、関連対策の構築に役立てています。
インドでは、モディ首相が2020年7月にアグロフォレストリーと森林生態系保護の重要性を強調し、林業を政府の重要戦略として取り組むと宣言しました。2050年までにアグロフォレストリー実施面積を、現在の1350万ヘクタールから8700万ヘクタールに増やす目標も打ち出し、各自治体では海外財団などと連携し、積極的にアグロフォレストリーに取り組んでいます。
米国の非営利シンクタンクであるプロジェクト・ドローダウンの推計によると、世界でアグロフォレストリーに取り組む規模は約6億5000万ヘクタールで、2050年までに7億7000万ヘクタールに増やした場合、温室効果ガスを30年間で最大42億トン削減できると発表しています。(平均でみると最大年間1.4億トン削減となり、これは日本の年間排出量約12億トンの10分の1量を毎年減らす計算になります。)
アグロフォレストリーの仕組み
アグロフォレストリーは、土地の環境・気候条件に合わせて、背の低い草から高い樹木まで、食べられる種類を中心に、さまざまな植物を共存させて森のような環境を作ります。農作物、もしくは家畜をほぼ同時期に植栽したり放牧したりします。樹木等の成長度合に応じて、農作物を短期的あるいは永久的に栽培、飼育し、森林を保ちつつ土地を有効に利用し、生産するシステムです。
さまざまな植物や生態系を共存させて森のような環境を作ることで、農薬に頼らずに手をかけなくても持続性の高い農業が実現可能となります。
アグロフォレストリーは日本でも実施されている?
一般的なアグロフォレストリーの方法は、タウンヤ・システム(Taungya System/木場作造林)とも呼ばれる方法で、植林の初期に農作物を木々の間で育てていくことで食料生産と森林造成を両立させようというものです。
一方、日本では焼畑農業と呼ばれる、作物を栽培した後に農地を焼き払って地力を回復させる農法が行われてきました。森林を伐採して火入れ後1年から数年を耕作期間、数年から数十年を休閑期間として、森林を再生させ、再び火入れにより開墾するという、循環システムが普及していましたが、焼畑農法は土壌の肥沃度は低下する側面もあり、今後は樹木と農作物あるいは牧草を長期的に組み合わせて、農地や放牧地の土壌保全や永続的な生産性の維持向上を図ることが課題となっています。
アグロフォレストリーに適した場所とは?
アグロフォレストリーは、焼畑や放牧に伴う火入れや農作物の連作等の人為的な影響を受け、土壌の肥沃度は低下している土地や、強い風や、雨季に短時間に降る豪雨等の自然的な影響によって土壌浸食が進行している土地に対する有効な解決策の一つです。樹木と農作物あるいは牧草を長期的に組み合わせ、農地や放牧地の土壌保全や永続的な生産に貢献することが可能です。
また、アグロフォレストリーは、農地ばかりではなく、造林地や灌漑農地、放牧地、居住地などの各種土地利用形態において広く適用することができます。これらの地形条件、土壌条件、水利条件、地域住民のニーズ等に応じて、いろいろな方法を組み合わせることが考えられます。
アグロフォレストリーのメリット・デメリット
アグロフォレストリーのメリット
一つの土地に限られた種類の野菜だけを育てる単一栽培と比較して、アグロフォレストリーは、自然の生態系に倣って高木、低木、果樹などの多様な植物を共生させるため、生物多様性の維持または拡張を可能にします。多品目を同時に育てることにより、連作障害の心配や、豊作による市場の価格暴落などのダメージを最小限にし、経済的安定を得られます。さらにその自然の生態系の恩恵により、生産者の手がかからず長期にわたって安定的な収入が見込めます。
また、互いに良い影響を与えあう共栄作物(コンパニオンプランツ)を活用することにより、化学肥料や殺虫剤がいらない安心安全な野菜を栽培・収穫することが可能となり、付加価値のついた商品開発へと繋がります。地球環境問題の視点からは、二酸化炭素をたくさん吸収する成長樹木を育てることで地球温暖化対策も期待できます。
アグロフォレストリーのデメリット
多品種を少量ずつ育てるため、軌道に乗るまでに時間とコストがかかることが一番の問題点です。複数の植物や家畜を同時に生産するためには、それだけマンパワーや新しい知識と技術が必要となります。また、アグロフォレストリーの特徴である林間の土地で育てた複数の農作物の収穫には、従来の単一種の栽培時のような農機で一括の収穫作業も難しく、それだけ人手も必要となってきます。加えて、植樹は商品化となるまでに少なくとも数年から数十年という時間が必要となります。いずれも軌道に乗れば素晴らしいシステムですが、それまでには、相当な時間とコストと継続した専門家のフォローが必要となることがデメリットと言えます。
まとめ
アグロフォレストリーはとても素晴らしい概念ですが、その実践は容易ではありません。あくまで農業が中心ではありますが、森林との共存の中で実践するための包括的な視点が不可欠です。その土地の気候条件や、周辺環境との調和を考慮し、その土地の生態系が維持できる在来種を中心とした循環サイクルをデザインできる専門家の育成や、国や企業のサポートがますます必要となってくるでしょう。
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